カグツチ 神社の神様 - 神社ファン

カグツチ

かぐつち

  • 神話・伝説
  • 不明
カグツチ

玉蘭斎貞秀(神佛図會)

祭神ランキング12位

カグツチとは?

カグツチは記紀神話などに登場する男神。古事記では火之迦具土神あるいは火之夜藝速男神と表記され、日本書紀では軻遇突智と記されている。イザナギとイザナミの神生みにおいて生まれた火の神であり、イザナミはカグツチを産んだ際に陰部を焼かれ、その傷がもとで亡くなった。
妻の死を悲しみ怒ったイザナギは、十拳剣でカグツチの首を斬る。その際、剣についた血やカグツチの身体から数多くの神々が生まれた。古事記では剣の血から石折神、根折神、石筒之男神、甕速日神、樋速日神、建御雷之男神などが生まれ、切り分けられたカグツチの身体からは正鹿山津見神をはじめとする八柱の山神が生まれた。日本書紀にも異なる形で、カグツチの血や身体から神々が生まれる伝承が記されている。
神名の「カグ」については、火が輝くことや燃えることなどに関係するとする説があり、カグツチは火そのものを象徴する神として信仰されてきた。火は人々の生活や産業に欠かせない一方、火災をもたらす恐ろしい存在でもある。そのためカグツチは火の恵みをもたらす神であると同時に、火難を防ぐ火伏せの神としても信仰されるようになった。
後世には秋葉信仰や愛宕信仰など火防の信仰とも結びつき、各地の神社で火産霊神、火之迦具土神などの名で祀られている。
これらのことから、カグツチのご利益は火難除け、防火、産業守護、金属加工守護、陶業守護などとされる。
カグツチを祀る代表的な神社には、秋葉山本宮秋葉神社(静岡県浜松市)、愛宕神社(京都府京都市)、産田神社(三重県熊野市)などがある。

エピソード

母イザナミの死を招いた火神
カグツチは、イザナギとイザナミの神生みの中で誕生した火の神である。『古事記』では火之夜芸速男神、火之炫毘古神、火之迦具土神と記され、『日本書紀』では軻遇突智、火産霊などの名で登場する。
『古事記』では、イザナミはカグツチを生んだ際に陰部を焼かれて重い火傷を負う。病に伏したイザナミの嘔吐物からカナヤマヒコノカミカナヤマヒメノカミ、糞からハニヤスヒコハニヤスビメ、尿からミヅハノメワクムスビが生まれ、やがてイザナミは神避りした。
火は食物を調理し、寒さを防ぎ、物を作るために欠かせない一方、制御できなければ人の命を奪う。カグツチの誕生が神生みを大きく転換させ、イザナミの死へつながる物語は、火が持つ強大で危険な力を鮮烈に示している。

出典・参考:『古事記』、『日本書紀』、國學院大學 古典文化学事業



父イザナギに斬られた神
イザナミを失ったイザナギは、死の原因となったカグツチに怒りを向ける。『古事記』では、腰に帯びていた十拳剣《とつかのつるぎ》を抜き、自らの子であるカグツチの首を斬った。
しかし、カグツチの物語はここで終わらない。斬られた際に剣へ付着した血が岩に飛び散り、そこから次々と神々が生まれ、さらにカグツチの遺体の各部からも山の神々が生まれた。
カグツチは、自らが子をもうけるのではなく、死によって多くの神々を生み出すという特異な位置を占める。母イザナミを死に至らせた火の力が、今度はカグツチ自身の死を通して新たな神々を生み出す力へ転じているのである。
『日本書紀』にもイザナギがカグツチを斬る異伝があるが、生まれる神々や身体の分かれ方などには『古事記』との違いがある。両書の伝承は分けて理解する必要がある。

出典・参考:『古事記』、『日本書紀』、國學院大學 古典文化学事業



血から生まれたタケミカヅチ
『古事記』では、イザナギがカグツチを斬った十拳剣から流れた血によって、複数の神々が誕生する。その中でも後の神話で大きな役割を担うのがタケミカヅチである。
剣の先についた血が岩に飛び散ると石拆神、根拆神、石筒之男神が生まれ、剣の根元についた血から甕速日神、樋速日神、建御雷之男神が生まれた。この建御雷之男神がタケミカヅチであり、後に葦原中国の国譲りで大国主のもとへ派遣される武神となる。
さらに別の箇所についた血からは闇淤加美神や闇御津羽神も生まれた。カグツチの血から生まれる神々には、剣や岩、水などと関係づけられる神々が含まれている。
タケミカヅチの誕生をたどると、その起点にはカグツチの死がある。国譲りや武神として知られるタケミカヅチと火神カグツチは、一見すると離れた神々に見えるが、『古事記』ではこの神生みの系譜によって直接つながっている。

出典・参考:『古事記』、國學院大學 古典文化学事業



身体から生まれた八柱の山神
『古事記』では、斬られたカグツチの身体から八柱の山の神が生まれた。頭から正鹿山津見神、胸から淤縢山津見神、腹から奥山津見神、陰部から闇山津見神、左手から志芸山津見神、右手から羽山津見神、左足から原山津見神、右足から戸山津見神が生まれたとされる。
これらの神名には、奥山、羽山、原、戸など、山の場所や姿を思わせる語が含まれている。カグツチの身体が分かれることで、山を構成するさまざまな領域が神として現れたような構成になっている。
一方、『日本書紀』の一書では、カグツチを三段に斬ったとする伝承や、五つに斬られた身体から大山祇・中山祇・麓山祇・正勝山祇・䨄山祇が生まれたとする伝承などがあり、『古事記』とは異なる。
火神の身体からなぜ山神が生まれるのかについては、火山活動や山焼きとの関係などさまざまな解釈がある。ただし、これらは神話本文が直接説明しているものではなく、後世の解釈として区別する必要がある。

出典・参考:『古事記』、『日本書紀』、國學院大學 古典文化学事業



火は破壊と生成をもたらす
カグツチの神話では、火は一貫して破壊だけをもたらすものとして描かれているわけではない。カグツチの誕生によってイザナミは重傷を負い、やがて死を迎えるが、その苦しみの中から金属、土、水、食物などに関わる神々が生まれる。さらにカグツチ自身が斬られると、その血や身体からも多くの神々が誕生する。
この構成から、カグツチを単なる火災や災厄の神として見るだけでは、その神格を十分に捉えられない。火は物を焼き尽くす一方、煮炊き、暖房、金属加工、焼成など、人間の生活や生産にも欠かせない力である。
後世には、カグツチの神話を火による生成や生産と結びつけて解釈する説も生まれた。秋葉山本宮秋葉神社でも、火之迦具土大神の火の光・熱・エネルギーを、人間生活や工業・科学を支える力として説明している。
カグツチは、恐ろしい火を鎮めるだけの神ではなく、人間が火の恩恵を受けながらその危険を畏れてきたことを象徴する火神として信仰されてきた。

出典・参考:『古事記』、秋葉山本宮秋葉神社、國學院大學 古典文化学事業



なぜ火防の神になった?
カグツチは、火そのものを神格化した神である。記紀ではその誕生によって母イザナミが命を落とすほど激しい火の力を示すが、後世の信仰では、その強大な火を司る神だからこそ火災を鎮めることができるとして、火防《ひぶせ》・火災除けの神として広く祀られるようになった。
代表的なのが秋葉山本宮秋葉神社である。同社では火之迦具土大神を祭神とし、「火の幸を恵み、悪火を鎮める」火防開運の神として信仰している。現在も火災消除、家内安全、厄除開運、商売繁盛、工業発展などの神徳を掲げる。
愛宕信仰でも、火産霊命《ほむすびのみこと》を祭神とする愛宕神社が各地にあり、防火の神として信仰されてきた。火産霊は『日本書紀』にもカグツチの異名として現れる神名である。
火を遠ざけるのではなく、火を司る神を祀ることで火の恵みを受け、災いとなる火を鎮めようとする。カグツチの火防信仰には、生活に不可欠でありながら常に危険を伴う火と向き合ってきた人々の信仰が表れている。

出典・参考:『日本書紀』、秋葉山本宮秋葉神社、東京都神社庁



秋葉信仰とカグツチ
現在、全国の秋葉神社の総本宮である秋葉山本宮秋葉神社では、火之迦具土大神を祭神として祀っている。しかし、現在の祭神名だけを見て、古くから秋葉信仰がそのままカグツチ信仰だったと考えるのは適切ではない。
秋葉山の信仰は長い歴史の中で神道・仏教・修験道が重なり合って発展した。秋葉山本宮秋葉神社によれば、上古には岐陛保神ノ社と称し、中世には両部神道の影響を受けて秋葉大権現と呼ばれた。近世には秋葉大権現の火防信仰が各地へ広がり、多くの秋葉講や分祀が生まれた。
明治初年の神仏分離によって権現号が改められ、秋葉神社となった。現在は神道側で火之迦具土大神を祭神とする一方、神仏習合期の秋葉三尺坊大権現の信仰は寺院側にも受け継がれている。
そのため、全国の秋葉神社でカグツチが多く祀られている背景には、記紀の火神としての性格だけでなく、秋葉大権現を中心に発展した火防信仰と、近代の神仏分離による祭神整理が関わっている。カグツチと秋葉信仰の関係は、後世の信仰史まで含めて理解する必要がある。

出典・参考:秋葉山本宮秋葉神社、國學院大學 古典文化学事業



熊野に残るカグツチ誕生伝承
三重県熊野市の産田神社には、カグツチの誕生を当地に結びつける伝承が残る。社伝では、イザナミがこの地で火神カグツチを生んだことから「産田」の名がついたとされ、現在もイザナミとカグツチを祀っている。
近くには、イザナミの葬地とする『日本書紀』一書の伝承と結びつく花窟神社が鎮座する。熊野では、カグツチを生んだ場所とされる産田神社と、イザナミの墓所と伝える花窟神社が、母神の出産と死をめぐる一連の伝承として受け継がれてきた。
ただし、『古事記』ではイザナミを出雲国と伯伎国の境にある比婆之山へ葬ったとし、『日本書紀』には熊野の有馬村に葬ったとする一書がある。記紀の伝承は一つではないため、熊野の伝承だけを唯一の場所とすることはできない。
産田神社は、火神カグツチの誕生を具体的な土地と結びつけて伝える貴重な信仰の場である。カグツチが神話の中だけでなく、地域の祭祀と結びついて祀られてきたことを示している。

出典・参考:『古事記』、『日本書紀』、三重県神社庁、熊野市観光公社



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出典文献

古事記

日本書紀

先代旧事本紀

神格

火の神 火防の神 鍛冶の神

ご神徳

防火 火災除け 郷土守護

別称・異称

火之夜芸速男神

ひのやぎはやおのかみ

古事記

火之炫毘古神

ひのかがびこのかみ

古事記

火迦具土神

ひのかぐつちのかみ

古事記

軻遇突智

かぐつち

日本書紀/先代旧事本紀

火産霊

ほむすび

日本書紀

火之産霊迦具突智

ほのむすひかぐつち

先代旧事本紀

火之焼彦神

ひのやきひこのかみ

先代旧事本紀

火焼速男神

ひのやきはやおのかみ

先代旧事本紀

迦具突智

かぐつち

先代旧事本紀

加供都智命

かぐつちのみこと

その他

加具土命

かぐつちのみこと

その他

加具槌神

かぐつちのかみ

その他

加具都智命

かぐつちのみこと

その他

火之夜芸速男命

ひのやぎはやおのみこと

その他

火之迦具槌命

ひのかぐつちのみこと

その他

火之迦具津知命

ほのかぐつちのみこと

その他

火之迦具都智命

ほのかぐつちのみこと

その他

火具土命

かぐつちのみこと

その他

火具槌命

かぐつちのみこと

その他

火武須比大神

ほむすびのおおかみ

その他

火牟須毘命

ほむすびのみこと

その他

火生霊命

ほむすびのみこと

その他

火産巣日大神

ほむすびのおおかみ

その他

火迦具槌命

ほのかぐつちのかみ

その他

火遇突智命

ほのかぐつちのみこと

その他

火霊大神

ほむすびのおおかみ

その他

火魂命

ほむすびのみこと

その他

賀具突智神

かぐつちのかみ

その他

軻邁突知神

かぐつちのかみ

その他

迦久土神

かぐつちのかみ

その他

迦具土之命

かぐつちのみこと

その他

迦具槌神

かぐつちのかみ

その他

迦具豆知命

かぐつちのみこと

その他

迦具都智命

かぐつちのみこと

その他

迦具都知神

かぐつちのかみ

その他

香倶槌神

かぐつちのかみ

その他

香具土命

かぐつちのみこと

その他

関連する神様

かまど神 

神様グループ

三十五神  竈三柱神 

祀られている主な神社

愛宕神社
(京都府右京区嵯峨愛宕町1)
伊豆山神社
(静岡県熱海市伊豆山708-1)
宝登山神社
(埼玉県長瀞町長瀞1828)
秋葉山本宮秋葉神社
(静岡県天竜区春野町領家841)
伊達神社
(宮城県色麻町四釜字町3 )