玉依姫命
たまよりひめのみこと
- 神話・伝説
- 女神・女性

玉蘭斎貞秀(神佛図會)

大塚辰夫 - 博文館(日本国史物語)

祭神ランキング43位
玉依姫命とは?
玉依姫命は記紀神話や風土記などに登場する女神である。タマヨリビメとも呼ばれ、玉依毘売、玉依媛、玉依日売などとも表記される。「タマヨリ」は神霊が依りつく女性を意味すると考えられ、古代の伝承には玉依姫の名を持つ異なる系譜の女神が複数登場する。そのため、各地で祀られる玉依姫命がすべて同一の女神であるとは限らない。
古事記や日本書紀の日向神話に登場する玉依姫命は、海神ワタツミの娘で、豊玉姫命の妹である。姉の豊玉姫命がホオリとの間に産んだウガヤフキアエズを養育し、成長したウガヤフキアエズの妻となった。2柱の間には五瀬命、稲氷命、御毛沼命、神倭伊波礼毘古命らが生まれ、この末子が後の神武天皇となる。海神の娘としての性格に加え、皇統につながる御子を養育し、自らも神武天皇らを産んだことから、海や水、子授け、安産、子育てなどと結びつけて信仰されてきた。
日本書紀神代巻の一書には、高皇産霊尊の孫にあたる玉依姫命も登場する。天忍骨命の妃となり、天之杵火火置瀬尊を産んだとされ、日向神話に登場する海神の娘の玉依姫命とは系譜が異なる。玉依姫という名が一柱だけの固有名ではなく、複数の神話系譜に現れることを示す伝承の一つである。
また、山城国風土記逸文に登場する玉依日売は、賀茂建角身命と伊可古夜日女の娘である。石川の瀬見の小川で川遊びをしていたところ、上流から丹塗矢が流れてきたため、これを持ち帰って床のそばに置くと懐妊し、賀茂別雷命を産んだと伝えられる。この丹塗矢は同書で乙訓郡に鎮座する火雷神とされている。玉依日売は賀茂氏の重要な祖神として、父の賀茂建角身命とともに下鴨神社(賀茂御祖神社)に祀られており、縁結び、子授け、安産、子育てなどの信仰を集めている。
このように玉依姫命の名を持つ女神は複数の伝承に登場するが、いずれも神霊を受け、その神威を次代へ伝える女性という性格が見られる。海神の娘の玉依姫命を主祭神とする代表的な神社には玉前神社(千葉県長生郡一宮町)があり、宮﨑神宮(宮崎県宮崎市)では神武天皇の母としてウガヤフキアエズとともに祀られている。また賀茂系統の玉依媛命は下鴨神社(京都府京都市)に祀られるなど、各地でそれぞれの伝承に基づいた玉依姫信仰が伝えられている。
エピソード
『古事記』に登場する玉依毘売《たまよりびめ》は、海神ワタツミの娘であり、豊玉毘売《とよたまびめ》の妹である。姉の豊玉毘売はホオリとの間にウガヤフキアエズをもうけたが、出産時の姿を夫に見られたことを恥じ、海神の国へ帰ってしまった。
豊玉毘売は、地上に残した御子を養育させるため、妹の玉依毘売を遣わした。玉依毘売はウガヤフキアエズを育て、成長した後にはその妻となった。二柱の間には五瀬命《いつせのみこと》、稲氷命《いなひのみこと》、御毛沼命《みけぬのみこと》、若御毛沼命《わかみけぬのみこと》の四柱が生まれ、末子の若御毛沼命がのちの神武天皇とされる。
玉依毘売は、姉の御子を養育した女神であると同時に、初代天皇の母として皇統につながる重要な位置を占めている。山の神の娘との婚姻に始まった天孫の系譜は、豊玉毘売と玉依毘売という二代の海神の娘との婚姻を経て、神武天皇へ受け継がれたのである。
出典・参考:『古事記』、『日本書紀』、國學院大學「古事記神名データベース・玉依毘売」、宮﨑神宮公式サイト「宮﨑神宮とは」
玉依姫という名は、一柱の女神だけを示す固有名ではなく、記紀や風土記に異なる女性や女神の名として登場する。「タマ」は神霊、「ヨリ」は依りつくことを表し、一般には神霊が依りつく女性、すなわち神の依代《よりしろ》となる巫女を意味する名と考えられている。
『古事記』の日向神話に登場する玉依毘売は、海神の娘で神武天皇の母である。一方、『古事記』の崇神天皇の段に登場する活玉依毘売《いくたまよりびめ》は、三輪山の大物主大神の妻となった女性であり、海神の娘とは別の存在である。また、『山城国風土記』逸文の玉依日売《たまよりひめ》は賀茂氏の祖神であり、賀茂別雷命《かもわけいかづちのみこと》の母とされる。
『日本書紀』神代巻第九段の一書第七には、高皇産霊尊《たかみむすひのみこと》の孫として玉依姫命の名が現れるが、これも日向神話の海神の娘とは異なる系統の伝承である。同じ名をもつ女神たちは、神と結ばれ、その力を地上へ伝える女性という共通した性格を備えている。
出典・参考:『古事記』、『日本書紀』、『山城国風土記』逸文、國學院大學「古事記神名データベース・玉依毘売」
『山城国風土記』逸文に登場する玉依日売は、賀茂建角身命《かもたけつぬみのみこと》の娘である。ある日、石川の瀬見の小川で川遊びをしていたところ、上流から丹塗矢《にぬりや》が流れてきた。玉依日売がその矢を持ち帰り、床の近くに置いておくと懐妊し、男児を産んだ。
御子が成人すると、祖父の賀茂建角身命は宴を開き、御子に父と思う者へ酒を飲ませるよう命じた。すると御子は、父は天神であると告げ、屋根を突き破って天へ昇ったという。この御子が、上賀茂神社の祭神である賀茂別雷命である。
賀茂御祖神社、通称下鴨神社では、賀茂建角身命を西本殿、玉依媛命を東本殿に祀っている。この玉依媛命は賀茂氏の祖神であり、記紀の日向神話に登場する海神の娘の玉依姫命とは異なる系統の女神である。神霊の宿る丹塗矢によって神の子を産む伝承は、「神霊が依りつく女性」という玉依姫の名の性格をよく表している。
出典・参考:『山城国風土記』逸文、下鴨神社公式サイト「御祭神・歴史・神話」、上賀茂神社公式サイト「御神話」
千葉県長生郡一宮町の玉前神社《たまさきじんじゃ》は、玉依姫命を主祭神とする上総国《かずさのくに・現在の千葉県中部》一宮である。『延喜式』神名帳では名神大社に列し、古くから朝廷や武家の崇敬を受けてきた。
玉前神社では、玉依姫命を海神の娘であり、姉の豊玉姫命が産んだウガヤフキアエズを養育した女神と伝えている。やがてウガヤフキアエズと結ばれ、神武天皇を産んだことから、縁結び・子授け・安産・子育てなど、女性の一生を守る神として信仰されている。
玉前神社を中心とする上総十二社祭りでは、玉依姫命とその一族の神々が、九十九里浜南端の釣ヶ崎海岸で年に一度再会すると伝えられる。海辺へ神輿が集まる浜降り神事であり、玉依姫命が海神の娘であることや、その一族との結びつきを現在へ伝えている。
出典・参考:『延喜式』神名帳、玉前神社公式サイト「玉依姫命」「無形民俗文化財・上総十二社祭り」、千葉県公式観光サイト「玉前神社」
玉依姫命は、海神や賀茂氏に関わる神社だけでなく、八幡宮の祭神としても祀られている。福岡県福岡市の筥崎宮では、応神天皇を主祭神とし、神功皇后と玉依姫命をともに祀っている。八幡信仰に玉依姫命が取り入れられた背景には、八幡宮で祀られる比売神《ひめがみ》との関係がある。
中世に成立した『八幡宇佐宮御託宣集』や『八幡愚童訓』などには、比売神を海神の娘で神武天皇の母である玉依姫とする伝承がみられる。この伝承をもとに、比売神と玉依姫命を同じ神と考える信仰が各地の八幡宮へ広がった。
ただし、八幡信仰における比売神の正体には複数の説がある。宇佐神宮では現在、比売大神を多岐津姫命・市杵嶋姫命・多紀理姫命の宗像三女神として祀っており、すべての八幡宮の比売神が玉依姫命というわけではない。玉依姫命は、中世以降に形成された比売神との同一視を通して、八幡信仰のなかでも祀られるようになった女神である。
出典・参考:筥崎宮公式サイト「筥崎宮について」、宇佐神宮公式サイト「ご祭神」、國學院大學「古事記神名データベース・玉依毘売」、『八幡宇佐宮御託宣集』、『八幡愚童訓』
ご神徳
ご神徳は不明です。
別称・異称
たまよりひめ
その他
玉依姫たまよりひめ
その他
玉依媛たまよりひめ
その他
玉依日売たまよりひめ
その他
玉依日女たまよりひめ
その他
祀られている主な神社
下鴨神社(賀茂御祖神社)
(京都府左京区下鴨泉川町59)
霧島神宮
(鹿児島県霧島市霧島町田口2608-5)
筥崎宮
(福岡県東区箱崎1丁目22−1)
竈門神社
(福岡県太宰府市大字内山883)
玉前神社
(千葉県一宮町一宮3048番地)
