岐の神 神社の神様 - 神社ファン

岐の神

くなとのかみ

  • 神話・伝説
  • 不明
岐の神

表記なし

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岐の神とは?

岐神《ふなとのかみ・くなどのかみ》は、道や境界を守り、外から入り込む災厄を防ぐ神である。久那土神、久那止神、久那戸神、久那斗神、久那度神、来名戸之祖神など、資料や地域によってさまざまな名や表記で呼ばれる。古くから道の分岐点や辻、峠、村の境などに祀られ、外敵や悪霊、疫病などが内側へ入り込むことを防ぐ境界の神として信仰されてきた。
『日本書紀』一書第六では、黄泉国から逃げ帰ったイザナギが黄泉津平坂で杖を投げ、「ここから先へ来てはならない」と境界を定めたところ、その杖から岐神が生まれたと記される。また、一書第九では岐神の本来の名を来名戸之祖神としている。一方、『古事記』では、黄泉国から帰還したイザナギが禊を行う前に杖を投げ捨て、その杖から衝立船戸神が成ったとされる。両神は境界を遮るという共通した性格を持つが、記紀では異なる場面に登場する。
また、『古事記』には道俣神が登場し、平安時代の『延喜式』所収「道饗祭祝詞」では、久那斗、八衢比古、八衢比売が都へ災いをもたらすものを防ぐ神として祀られている。これらの神々は道や境界を守るという共通した神格を持つが、すべてを岐神と同一神と断定することはできない。
後世には塞の神や道祖神の信仰とも結びつき、岐や辻、峠などに鎮まる「辻の神」「峠の神」などとしても信仰された。地域によってはサルタヒコやシオツチノオジなど道や旅に関係する神々と神格が重ねられた例もある。また、農耕や五穀豊穣、牛馬守護、子孫繁栄などの信仰とも結びつき、現在では厄除けや交通安全などの神としても信仰されている
岐神は、御杖神社(奈良県宇陀郡御杖村)、出雲大社境外摂社の出雲井社(島根県出雲市)、舟戸神社(奈良県北葛城郡王寺町)などで祀られている。

エピソード

黄泉比良坂で越境を止めた杖の神
『日本書紀』神代巻の一書第六では、黄泉国から逃げ帰ったイザナギが黄泉津平坂に到着し、追ってきた者たちに向かって、これより先へ来てはならないという意味の言葉を告げた。そして自らの杖を投げると、その杖から岐神《ふなとのかみ》が生まれたと伝えられている。
杖は歩く者を支える道具であると同時に、地面へ立てれば、ここから先へ進んではならないことを示す標にもなる。黄泉国と現世の境で生まれた岐の神は、二つの世界を分け、死や穢れが人の世界へ入り込むことを防ぐ神となったのである。別の一書では、その本来の名を来名戸之祖神《くなとのさえのかみ》としている。「クナト」には来ることを禁じる、通行を遮るといった意味があるとする説があり、境界を守る神格をよく表している。
『古事記』にも杖から生まれる神が登場するが、場面は少し異なる。黄泉国から帰ったイザナギが禊を行うために身につけていた物を投げ捨てた際、杖から衝立船戸神《つきたつふなとのかみ》が成った。いずれの伝承でも、杖から生まれた神が道を遮り、災いの侵入を止める役割を担っている。

出典・参考:『古事記』、『日本書紀』、國學院大學 古典文化学事業「衝立船戸神」



都の境で災いを防いだ道饗祭
平安時代の法令集である『延喜式』には、都へ入り込もうとする災いを防ぐ道饗祭《みちあえのまつり》の祝詞が収められている。祭りでは久那斗、八衢比古、八衢比売の三柱を祀り、根の国や底の国からやって来る荒ぶるものが都の内へ入らないよう願った。
「八衢」は道が幾つにも分かれる場所を意味する。多くの人や物が行き交う分岐点は、外の世界と集落を結ぶ場所である一方、疫病や悪霊も侵入しやすい場所と考えられていた。そこで都の四方の道に神饌を供え、境界を守る神々の力によって災いを追い返そうとしたのである。
岐の神は、災いを起こしてから鎮める神ではなく、境界で食い止める神として祀られた。その信仰は宮廷の祭祀だけに限られず、村の入口や峠、橋のたもと、辻などにも広がった。現在、久那斗神・八衢比古神・八衢比売神を合わせて塞三柱神と呼ぶ神社があるのも、三柱がそろって道と境界を守った信仰に由来する。ただし、八衢比古と八衢比売は岐の神の別名ではなく、道饗祭でともに祀られた別の神である。

出典・参考:『延喜式』「道饗祭祝詞」、國學院大學デジタルミュージアム「道饗祭」



道祖神と結びつき村や旅人を守る
岐の神の信仰は、後世になると塞の神や道祖神の信仰と結びついた。村の入口や道の分岐点、峠などに石碑や石像を置き、疫病、悪霊、災害が集落へ入り込まないよう願うものである。旅人が行き交う道に祀られたことから、道中の安全や交通安全を守る神としても信仰された。
地域によっては、道案内をした神話を持つサルタヒコや、旅人を導く神格を持つシオツチノオジが道祖神と結びつけられた。また、仏教の地蔵菩薩が村境や街道沿いに祀られ、道祖神と同じ役割を担う例もある。ただし、これらは各地の信仰が重なった結果であり、岐の神、サルタヒコ、地蔵菩薩などが本来から同じ存在だったわけではない。
道祖神には男女一対の像も多く、夫婦円満、縁結び、子授けを願う信仰が生まれた。農村では田畑や家畜を災いから守る神ともなり、五穀豊穣や牛馬守護の神徳が加わった。岐の神は、道を遮る古代の境界神から、人々の暮らし、旅、農業を幅広く守る身近な神へと信仰を広げていったのである。

出典・参考:『日本書紀』、高崎市教育委員会「道祖神」、仙台市公式サイト「道祖神」



御杖神社から交通神社へ続く境界神の信仰
奈良県御杖村の御杖神社では、久那斗神を主祭神とし、八衢比古神と八衢比女神を配祀している。社名は、倭姫命が天照大神を祀る土地を求めて旅をした際、その候補地を示すために杖を置いたという伝承に由来する。杖を境界の印とする伝承と、杖から生まれた岐の神の神話が重なり、村名の由来にもなったと伝えられている。
島根県出雲市の出雲井神社は出雲大社の境外摂社であり、岐神を祀る。神社では、大国主の国譲りに際して高天原から来た神々を岐神が先導し、国土を安定させたと伝えている。これは記紀本文とは異なる出雲井神社独自の伝承であるが、道を守るだけでなく、進むべき方向へ導く神として信仰されたことが分かる。
京都市の須賀神社境内にある交通神社では、久那斗神、八衢比古神、八衢比売神を祀っている。自動車交通の発達を背景として昭和三十九年に創建され、交通安全を守る神として崇敬を集めるようになった。かつて黄泉国と現世の境を守り、都や村へ災いが入ることを防いだ岐の神は、現代では道路を行き交う人や車を守る神として、その役割を受け継いでいる。

出典・参考:御杖村観光協会「御杖神社」、出雲大社公式サイト「出雲井神社」、京都市観光協会「須賀神社・交通神社」



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出典文献

古事記

日本書紀

先代旧事本紀

延喜式

神格

交通・旅の神 祓除の神

ご神徳

厄除け 交通安全 五穀豊穣 農産牛馬守護

別称・異称

衝立船戸神

つきたつふなどのかみ

古事記/先代旧事本紀

来名戸之祖神

くなとのさえのかみ

日本書紀/先代旧事本紀

来名戸神

くなとのかみ

先代旧事本紀

久那斗

くなと

延喜式

久名戸乃神

くなとのかみ

その他

久那土大神

くなどのおおかみ

その他

久那度神

くなどのかみ

その他

久那戸大神

くなどのおおかみ

その他

久那戸姫

くなどひめのかみ

その他

久那止神

くなとのかみ

その他

具莫戸神

くなどのかみ

その他

岐大神

くなどのおおかみ

その他

船戸神

ふなどのかみ

その他

衝立久那戸神

つきたつくなどのかみ

その他

神様グループ

イザナギの禊ぎによって生まれた12神 

祀られている主な神社

息栖神社
(茨城県神栖市息栖2882番地)
二俣神社
(宮城県石巻市三輪田字尾崎前2 )
鬼鎮神社
(埼玉県嵐山町嵐山町川島1898)
社宮神社
(静岡県浜名区都田町7029)
六所神社
(愛知県岡崎市明大寺町字耳取44)