クラオカミノカミ 神社の神様 - 神社ファン

クラオカミノカミ

くらおかみのかみ

  • 神話・伝説
  • 龍
クラオカミノカミ

玉蘭斎貞秀(神佛図會)

祭神ランキング70位

有名別称

クラオカミノカミとは?

クラオカミノカミは記紀神話に登場する水と雨を司る龍神である。古事記では闇淤加美神、日本書紀の一書では闇龗などと記される。娘にヒカワヒメがおり、その系譜はフハノモヂクヌスヌ、フカフチノミヅヤレハナ、オミヅヌ、アメノフユキヌを経てオオクニヌシへとつながるため、クラオカミノカミはオオクニヌシの祖先にもあたる。
神生みにおいて、イザナミが火の神カグツチを生んだことで亡くなると、イザナギはカグツチを十拳剣で斬った。古事記では、剣の柄に集まった血がイザナギの手の指の間から漏れ出し、クラオカミノカミとクラミツハが成ったとされる。日本書紀にも類似する異伝があり、一書第六では剣から滴った血によって闇龗などが生まれ、一書第七では斬られたカグツチの身体から高龗神が生まれたと記されている。
神名の「クラ」は谷間や暗い場所、「オカミ」は水や雨を司る龍神を表すと考えられている。「龗」は龍を表す古い語とされ、クラオカミノカミは谷間を流れる川や水源を司り、雨を降らせ、また長雨を止める水神・龍神として信仰されてきた。農耕に欠かせない水を支配することから、祈雨や祈晴をはじめ、農業や水害除けとも深く結びついている。
高龗神とは古典上の名称や誕生の記述が異なるが、いずれも雨や水を司る龍神であることから、後世には同一神とする信仰や、山上の高龗神と谷間の闇龗神を対応する水神とする解釈が生まれた。貴船神社でも高龗神と闇龗神について、呼び名は異なっても同じ神であるとする信仰が伝えられている。
一方、火の神カグツチを刀で斬った際の血から水神であるクラオカミノカミが生まれる神話については、刀剣によって火を鎮める火伏せの思想を表すとする説がある。またカグツチを斬った後に生まれる神々の一連の神話を、火、金属、水などを用いる古代の鍛冶や刀剣製造と関連づけ、クラオカミノカミを鍛冶の際に熱した金属を冷却する水の象徴とみる説もある。ただし、これらは記紀そのものに記された神格ではなく、神話の構造に対する後世の解釈である。
クラオカミノカミには祈雨、祈晴、水害除け、水源守護、農業守護、五穀豊穣、醸造業守護などのご利益があるとされる。
クラオカミノカミは丹生川上神社下社(奈良県吉野郡下市町)、雄神神社(富山県砺波市)などで祀られている。また高龗神と同神とする信仰のもとでは、貴船神社(京都府京都市)とも深い関係を持つ。

エピソード

火の神の血から生まれた水の神
イザナミは火の神カグツチを生んだことで大やけどを負い、命を落とした。妻の死を嘆いたイザナギは、腰に帯びていた十拳剣《とつかのつるぎ》を抜き、カグツチの首を斬った。『古事記』では、このとき剣に付いた血から多くの神々が成ったと伝えられている。
剣先の血が岩に飛び散るとイワサク、ネサク、イワツツノオが成り、剣の根元に付いた血からミカハヤヒ、ヒハヤヒ、タケミカヅチが成った。さらに剣の柄に集まった血がイザナギの手の指の間から漏れ出し、クラオカミノカミとクラミツハが成った。二柱はいずれも谷や水に関わる神と考えられている。
『日本書紀』一書第六にも近い伝承があり、剣の先から滴った血によって闇龗、闇山祇、闇罔象が生まれたと記される。ただし、血が滴った剣の部位や、同時に生まれた神々は『古事記』と異なっている。
火の神を斬った血から水の神が現れる構図は、火を鎮める水の力を表すと解釈されてきた。また、刀剣の霊力が雲を起こして雨を呼ぶという信仰や、熱した鉄を水で冷やす刀鍛冶の工程を反映した神話とする説もある。いずれも後世の解釈であり、記紀本文が誕生の意味を直接説明しているわけではないが、クラオカミノカミが火を抑え、命を支える水の神として信仰される背景を示している。

出典・参考:『古事記』、『日本書紀』、國學院大學 古典文化学事業「闇御津羽神」



高龗神と闇龗神は同じ神なのか
クラオカミノカミと高龗神は、いずれも雨や水を司る龍神として信仰されている。しかし、記紀における名称と誕生の記述は同じではない。
『古事記』では、イザナギがカグツチを斬った剣の柄から漏れた血によって、闇淤加美神が成ったと記される。『日本書紀』一書第六では、剣から滴った血によって闇龗が生まれる。一方、一書第七では、斬られて三つに分かれたカグツチの身体のうち、一段が高龗になったと記されている。『日本書紀』の異なる一書に登場する闇龗と高龗は、本文の上では別々の伝承に属しているのである。
神名の「高」は山上や峰、「闇」は谷間を意味すると考えられている。この解釈に従えば、高龗神は山に宿る水源や雨の神、クラオカミノカミは谷を流れる川や谷水の神となる。二柱を山と谷、上流と下流を守る一対の水神とする説は、こうした神名の違いに基づいている。
一方、京都府京都市の貴船神社では高龗神を祭神としながら、闇龗神について社記に「呼び名は違っても同じ神なり」と記されるとしている。このように、古典上では名称や誕生の経緯が異なる一方、実際の神社信仰では同一の水神として祀られてきた例がある。二柱は必ず同じ神、あるいは完全に別の神と断定するのではなく、古典と後世の信仰を分けて捉える必要がある。

出典・参考:『古事記』、『日本書紀』、貴布禰総本宮 貴船神社公式サイト「貴船神社について」



谷を流れる水を支配する龍神
クラオカミノカミの神名にある「クラ」は、日の届かない暗い場所という意味だけでなく、山に挟まれた谷間を表す言葉と考えられている。「オカミ」は『古事記』では淤加美、『日本書紀』では龗と表記され、水や雨を司る龍の神格を示すと解釈されている。クラオカミノカミは、谷間に集まって川となる水を象徴する龍神なのである。
山に降った雨は谷へ集まり、川となって平野を潤す。農耕社会にとって適度な雨と安定した川の流れは、稲や作物を育てるために欠かせない。一方で、大雨による洪水や長雨は田畑と暮らしを脅かす。このため水神には雨を降らせることだけでなく、雨を止め、水害を防ぐことも祈られた。クラオカミノカミに祈雨と祈晴の両方の神徳が結びつくのは、水の恵みと脅威をともに支配する神だからである。
水は農業に加え、酒や醤油などの醸造、布を染める染織にも欠かせない。クラオカミノカミが農業守護、醸造業守護、染織業守護の神とされるのは、これらの営みを支える清らかな水を司るためである。
龍は雲を起こし、雨を呼ぶ存在として信仰されてきた。クラオカミノカミも後世には龍神の姿で捉えられ、川、水源、井戸などを守る水神信仰と結びついた。神話の中で姿や言葉を示す場面はないが、山から里へ水を運ぶ谷の流れそのものが、この神の働きを表している。

出典・参考:『古事記』、『日本書紀』、國學院大學 古典文化学事業「闇御津羽神」、丹生川上神社上社公式サイト「神社について」



黒馬と白馬に託された雨の祈り
奈良県吉野郡下市町の丹生川上神社下社では、クラオカミノカミを闇龗大神《くらおかみのおおかみ》の名で祀っている。山々に囲まれた谷に鎮座し、水と雨を司る神として朝廷や地域の人々から崇敬されてきた。
丹生川上神社は、古くから朝廷が雨を願う祈雨と、長雨を止める祈晴を行った神社である。『続日本紀』には、天平宝字7年(763)に日照りが続いたため、丹生川上社へ黒毛の馬を奉ったことが記されている。後世には、雨を願うときには雨雲を表す黒馬を、晴天を願うときには白馬を献じる習わしが伝えられた。水神には雨を降らせる力だけでなく、降りすぎた雨を止める力も求められたのである。
京都府京都市の貴船神社では、高龗神を祭神として祀る。同社は高龗神と闇龗神について、名は異なっても同じ神であると伝えており、歴代朝廷から祈雨と祈晴の祈りが捧げられた。貴船川の水源に鎮座する貴船神社と、吉野の山深い谷に鎮座する丹生川上神社下社は、ともに水の流れと雨を守る神への信仰を現在に伝えている。
雨は人の力で自由に操ることのできない自然現象である。だからこそ人々は、黒馬や白馬を捧げ、山と谷を支配する龍神に天候の安定を願った。クラオカミノカミへの信仰は、豊かな水への感謝と、水害や干ばつを恐れる心の両方から生まれたものである。

出典・参考:『続日本紀』、下市町観光情報「丹生川上神社下社」、貴布禰総本宮 貴船神社公式サイト「貴船神社について」



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出典文献

古事記

日本書紀

先代旧事本紀

神格

雨の神 水の神

ご神徳

祈雨・祈晴 水害守護 農業守護 醸造業守護 染織業守護 商売繁盛 夫婦和合

別称・異称

闇淤加美神

くらおかみのかみ

古事記

闇龗

くらおかみ

日本書紀/先代旧事本紀

闇寵神

くらおかみ

その他

闇意賀美大神

くらおかみのおおかみ

その他

闇於加美之神

くらおかみのかみ

その他

闇淤神

くらおのかみ

その他

闇淤賀美神

くらおかみのかみ

その他

闇靇神

くらおかみのかみ

その他

関連する神様

オカミノカミ  クラミツハ 

祀られている主な神社

丹生川上神社下社
(奈良県下市町長谷1-1)
苕野神社
(福島県浪江町請戸字東向38)
銚港神社
(千葉県銚子市馬場町173番地)
石船神社
(新潟県村上市岩船三日市9番29号)
雄神神社
(富山県砺波市庄川町庄6446番地)