有名度
大関諏訪大社 下社春宮
すわたいしゃ しもしゃはるみや
長野県諏訪郡下諏訪町193
秋宮と同じの諏方造りの社殿
更新日:2026年10月3日
本殿がない「諏訪造り」の社殿
諏訪大社下社春宮の社殿は、本殿を持たない諏訪大社独特の「諏訪造り」と呼ばれる形式で建てられています。一般的な神社では拝殿の奥にご祭神を祀る本殿がありますが、春宮には本殿がなく、幣拝殿とその左右に伸びる片拝殿、その奥にある宝殿などによって構成されています。
境内の中心に建つ幣拝殿は桁行一間、梁間二間の楼造で、切妻造りの屋根の正面には軒唐破風が付けられています。その左右には片拝殿が伸びており、幣拝殿と左右片拝殿は1983年に国の重要文化財に指定されました。

秋宮を請け負ったのは立川流の初代立川和四郎富棟です。それに対して春宮を手掛けたのが、諏訪藩の御大工を務めた系譜を持つ大隅流の柴宮長左衛門でした。春宮は秋宮より遅れて造営を始めながら、秋宮に先んじて完成したと伝えられています。
同じような構造を持つ春宮と秋宮ですが、実際に見比べてみると細かな違いがあります。春宮の左右片拝殿は桁行五間、梁間一間で片流れの屋根を持つのに対し、秋宮の片拝殿は桁行五間、梁間二間の切妻造りです。春宮の片拝殿のほうが奥行きが浅く、両宮を参拝すると社殿の印象にも違いが感じられます。
大隅流の技術が詰まった華麗な彫刻
春宮の社殿でもうひとつ注目したいのが、幣拝殿の各所に施された華麗な彫刻です。

一方、秋宮には立川流による華麗な彫刻が施されています。春宮と秋宮には同じ題材を取り上げた彫刻もあり、二つの流派がどのように表現したのかを見比べることができます。
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大隈流と立川流
社殿が造営された当時、諏訪では大隅流と立川流という二つの大工流派が競い合っていました。春宮を大隅流の柴宮長左衛門、秋宮を立川流の立川和四郎富棟が手掛けたことから、両宮の造営をめぐっては二つの流派の激しい対抗意識を伝えるさまざまな逸話が残されています。ある日のことです。春宮側の人足が仕事の邪魔をしてやろうと夜の闇にまぎれて秋宮へ向かい、建築中の柱を切ったと言われています。
しかし和四郎はそれを予想していたかのように、あらかじめ柱を長めに用意していました。翌朝、切られた柱を確認してみると、必要な寸法にぴったり収まり、そのまま使用することができたという逸話が伝えられています。
また、先に完成した春宮を和四郎が見に行った際には、幣拝殿欄間の龍を見て「死んだ龍」のようだとけなしたと言われています。
それを聞いた長左衛門は、悟りを開けば動物でも腹を出して休むものだという意味の言葉を返し、和四郎を笑ったそうです。
その後、秋宮が完成すると今度は長左衛門が秋宮を訪れます。幣拝殿の脇飾りに施された「竹に鶴」の彫刻を見て、竹の下にあるものを筍かと思ったら、葉の重なりを見ると百合の芽ではないかとからかったという話も残されています。
これらは両流派の対抗意識を伝える逸話ですが、文化財として残る実際の社殿からも、大隅流と立川流が高い技術を競っていたことをうかがうことができます。
同じ基本形式を持ちながら、大隅流の春宮と立川流の秋宮という異なる流派がそれぞれ建築を担当したことは、下社の社殿を見るうえで非常に興味深いポイントです。春宮を参拝した後に秋宮を訪れ、二つの社殿や彫刻を見比べてみるのもおすすめです。

御祭神・ご利益
御祭神は建御名方神(たけみなかたのかみ)、八坂刀売神(やさかとめのかみ)、八重事代主神(やえことしろぬしのかみ)の三柱で、下社秋宮と同じ祭神構成です。下社では同じ神々を春宮と秋宮でお祀りしており、毎年2月1日に御霊代が秋宮から春宮へ遷り、8月1日には春宮から秋宮へ遷ります。春宮という名称も、春から夏にかけて御霊代がお祀りされることに由来しています。
諏訪大社で祀られる神々は「諏訪大神」として広く信仰されてきました。建御名方神は『古事記』の国譲り神話にも登場する神で、中世になると武士から軍神として篤く信仰されるようになります。鎌倉時代以降、諏訪信仰は武士とともに各地へ広がり、全国に数多くの諏訪神社が勧請されました。
一方、諏訪地方では古くから水や風、農耕に関わる神としても信仰されてきました。風雨は農作物の実りを大きく左右することから、五穀豊穣を願う信仰とも深く結びついています。
こうした信仰から、現在では勝負運や五穀豊穣などのご利益で特に知られています。また、建御名方神と八坂刀売神が夫婦神として祀られていることから、家内安全や夫婦円満を願う人々からも信仰されています。
春宮だけに異なる神様が祀られているわけではなく、春宮と秋宮を行き来する御霊代を中心として下社の祭祀が営まれていることを知っておくと、二つの宮を巡る意味もより分かりやすくなります。

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