フトダマ
ふとだま
- 神話・伝説
- 不明

豊国二代(岩戸神楽乃起顕)

玉蘭斎貞秀(神佛図會)
祭神ランキング75位
フトダマとは?
フトダマは記紀神話などに登場する神である。『古事記』では布刀玉命、『日本書紀』では太玉命や忌部神、『古語拾遺』では天太玉命と記される。古代朝廷において祭祀を司った忌部氏の祖神とされ、『古語拾遺』ではタカミムスビの娘・栲幡千千姫命の子とされている。
フトダマ自身も祭祀を司る神であり、アマテラスの岩戸隠れでは、オモイカネが考案した作戦に従い、アメノコヤネとともに占いを行った。さらに八尺瓊勾玉や八咫鏡などを掛けた天香山の五百津真賢木を捧げ持ち、アマテラスが岩戸から姿を現した際には鏡を差し出すなど、祭祀の中心的な役割を担った。また、アマテラスが岩戸から出ると、その背後に尻久米縄を張り、再び岩戸へ戻れないようにしたと伝えられる。
天孫降臨ではニニギに付き従った「五伴緒」の一柱に数えられる。『日本書紀』の一書では、アメノコヤネとともに神殿の内に仕え、天照大神の御魂を祀る鏡を守護するよう命じられており、アマテラスとの深い関係がうかがえる。
神名の「フト」は立派、偉大などを意味する美称とされ、「タマ」は祭祀に用いる玉を意味する説や、神名全体を立派な玉串の意味とする説などがある。神前で占いや祭具を担った伝承から、フトダマは神と人をつなぐ祭祀の神とも考えられている。また、忌部氏が麻や楮の栽培、織物や祭具の製作などに携わったことから、殖産興業や織物業の守護神としても信仰されている。
フトダマは、安房神社(千葉県館山市)、大麻比古神社(徳島県鳴門市)、天太玉命神社(奈良県橿原市)などで祀られている。大麻比古神社では大麻比古大神として祀られ、フトダマに連なる神として伝えられている。
エピソード
アマテラスが天石屋戸に隠れると、高天原と葦原中国は暗闇に包まれた。八百万の神々は天安河原に集まり、オモイカネの考えに従って、アマテラスを岩戸から迎え出すための祭祀を整えた。
『古事記』では、フトダマはアメノコヤネとともに、天香山の雄鹿の肩骨と波波迦《ははか》の木を用いて占いを行った。さらに、イシコリドメが作った八咫鏡、タマノオヤが作った八尺瓊勾玉、白和幣《しらにぎて》と青和幣《あおにぎて》を天香山の五百津真賢木《いほつまさかき》に取り付けた。
完成した祭具は太御幣《ふとみてぐら》と呼ばれ、フトダマが捧げ持った。その前でアメノコヤネが祝詞を唱え、アメノウズメが踊り、神々がそれぞれの役目を果たした。アマテラスが戸を開くと、フトダマとアメノコヤネは鏡を差し出し、その姿を映して岩戸の外へ誘い出した。
この神話には、祝詞を奏する中臣氏の祖神アメノコヤネと、神宝や幣帛を捧げる忌部氏の祖神フトダマの役割分担が表れている。フトダマは祭具を用意するだけでなく、神意を占い、御幣を捧げて祭祀を執り行う中心的な神であった。
出典・参考:『古事記』、『日本書紀』、國學院大學 古典文化学事業「布刀玉命」、伊勢神宮公式サイト「神宮の神話」
アマテラスが岩戸から姿を現すと、戸のそばに隠れていたアメノタヂカラオがその手を取り、外へ引き出した。世界に光が戻った直後、フトダマはアマテラスの背後へ尻久米縄《しりくめなわ》を張り、これより内へ戻ってはならないと告げた。
尻久米縄は、藁の端を切りそろえず、尻の部分を垂らした縄と考えられている。後世の注連縄《しめなわ》に通じるものとされ、神聖な場所と外の世界とを分ける境界を表す。岩戸の前に縄を張ることは、アマテラスが再び暗闇へ戻るのを防ぐと同時に、光を取り戻した新たな秩序を確定させる行為であった。
『日本書紀』本文でも、アマテラスが岩戸を出た後、フトダマがその背後に端出之縄《しりくめなわ》を張ったと記されている。記紀の双方がこの役割をフトダマに与えていることから、境界を設けて神聖な状態を守ることが、フトダマの重要な神格であったと分かる。
フトダマは神を招き出す祭祀を担うだけでなく、祭祀によって生まれた秩序を守り、災いが再び入り込まないようにする神でもある。この伝承が、後世に厄除けや災難除け、神域守護の神として信仰される背景となった。
出典・参考:『古事記』、『日本書紀』、國學院大學 古典文化学事業「布刀玉命」「天の石屋③」
天石屋戸の祭祀で役目を果たしたフトダマは、ニニギが高天原から地上へ降る天孫降臨にも随伴した。『古事記』では、アメノコヤネ、フトダマ、アメノウズメ、イシコリドメ、タマノオヤの五柱を五伴緒神《いつとものおのかみ》と呼ぶ。
伴緒とは、特定の職務に携わる集団を率いる者を意味する。五柱はそれぞれ中臣氏、忌部氏、猿女君、鏡作部、玉作部など、朝廷に奉仕した氏族の祖神とされる。フトダマが天孫に従って地上へ降ることは、天石屋戸で行われた神聖な祭祀の仕組みが、天孫の統治とともに地上へ移されたことを表している。
『日本書紀』の一書では、天照大神がアメノコヤネとフトダマに対し、神殿の内に仕えてよく守護するよう命じている。別の一書では、二柱がアメノオシホミミの降臨に随伴する。五伴緒がそろって登場する伝承だけでなく、祭祀を代表する二柱が特に選ばれる伝承も残されているのである。
フトダマは忌部氏の祖神として、神宝、幣帛、神殿、祭具に関わる職務の起源を示す神となった。天孫降臨への随伴は、フトダマが一度だけ岩戸祭祀に参加した神ではなく、王権の祭祀を継続して支える守護神であることを伝えている。
出典・参考:『古事記』、『日本書紀』、『古語拾遺』、國學院大學 古典文化学事業「布刀玉命」
『古語拾遺』では、フトダマは朝廷祭祀を担う忌部氏の祖神であるだけでなく、地方の忌部を率いる神として描かれている。フトダマに従う神々には、阿波国忌部の祖とされる天日鷲神、讃岐国忌部の祖・手置帆負命、紀伊国忌部の祖・彦狭知命、出雲国玉作の祖・櫛明玉命などが挙げられている。
徳島県鳴門市の大麻比古神社では、フトダマに結びつく大麻比古大神を祀る。神社の由緒では、フトダマの孫に当たる天富命が阿波国に入り、麻や楮《かじ》を植えて麻布や木綿を作り、地域の産業を開いた。その守護神として祖神の天太玉命を祀ったことが神社の始まりとされる。
天富命はさらに阿波忌部を率いて東国へ移り、麻や楮を栽培したと『古語拾遺』は伝える。阿波忌部が移住した土地は故郷にちなんで安房と呼ばれ、現在の千葉県館山市に祖神フトダマを祀る安房神社が創建されたとされる。四国の阿波と房総の安房に同じ読みが残るのは、この忌部氏の移住伝承によるものである。
フトダマが殖産興業、織物業、ものづくりの守護神として信仰される背景には、子孫とされた忌部氏が祭具の製作だけでなく、麻や楮の栽培、織物、地域開拓に携わった伝承がある。祭祀の神であるフトダマの信仰は、忌部氏の移動と産業を通して各地へ広がったのである。
出典・参考:『古語拾遺』、國學院大學 古典文化学事業「布刀玉命」、大麻比古神社公式サイト「由緒書」「Q&A」、安房神社公式サイト「ご祭神・ご由緒」
出典文献
古事記
日本書紀
古語拾遺
先代旧事本紀
続日本後紀
神格
ご神徳
別称・異称
ふとだまのみこと
古事記
太玉命ふとだまのみこと
日本書紀/古語拾遺
太玉者ふとたまのかみ
日本書紀
天太玉命あめのふとたまのみこと
先代旧事本紀/新撰姓氏録
太玉神ふとだまのかみ
古語拾遺
安房大神あわのおおかみ
続日本後紀
天布刀玉命あめのふとだまのみこと
その他
神様グループ
祀られている主な神社
安房神社
(千葉県館山市大神宮589番地)
天津神社
(新潟県糸魚川市大字一ノ宮1丁目3番34号)
五社神社諏訪神社
(静岡県中央区利町302-5)
粟井神社
(香川県観音寺市粟井町1719−2)
磯部稲村神社
(茨城県桜川市磯部779番地)
