ツクヨミ
つくよみ
- 神話・伝説
- 男神・男性らしい

玉蘭斎貞秀(神佛図會)
祭神ランキング53位
ツクヨミとは?
ツクヨミは記紀神話に登場する月の神である。『古事記』では月読命、『日本書紀』では月神、月弓尊、月夜見尊、月読尊などと記される。後世では男神とする認識が一般的だが、記紀には性別を明確に示す記述はない。
『古事記』では、黄泉国から帰還したイザナギが禊を行い、右目を洗ったときに生まれた。左目から生まれたアマテラス、鼻から生まれたスサノオとともに三貴子とたたえられ、夜之食国を治めるよう命じられた。『日本書紀』ではイザナギとイザナミが日の神に続いて月の神を生んだとする本文のほか、鏡から生まれたとする異伝などが伝えられている。
ツクヨミの名は、月齢を数えて月の満ち欠けを読むことに由来すると考えられている。月は暦を作り、農作業や祭りの時期を知る目印となった。また、『日本書紀』の一書には海原を治めるよう命じられたとする伝承があり、潮の満ち引きとの関係から海や漁業を守る神ともされる。
『日本書紀』の別の一書では、アマテラスの命を受けて保食神を訪ねたツクヨミが、口から食物を出してもてなす姿を汚らわしいと怒り、保食神を斬り殺した。アマテラスはこの行為を怒ってツクヨミと会わないと告げ、太陽と月は一日一夜を隔てて現れるようになったという。保食神の亡骸からは穀物や蚕、牛馬などが生まれたため、ツクヨミは農耕や五穀豊穣とも結びついている。
ツクヨミは暦、五穀豊穣、農漁守護、海上安全、家内安全などの神として信仰され、伊勢神宮の月読宮と月夜見宮、京都の月読神社、出羽三山の月山神社などで祀られている。
エピソード
ツクヨミは、太陽神であるアマテラスと並ぶ月の神である。『古事記』では月読命《つくよみのみこと》と記される。黄泉国《よみのくに》から逃げ帰ったイザナギが、筑紫の日向の橘の小門の阿波岐原《あわぎはら》で禊《みそぎ》を行った際、右目を洗うとツクヨミが生まれた。
この禊では、イザナギが左目を洗ったときにアマテラス、鼻を洗ったときにスサノオが生まれている。イザナギは三柱の誕生を大いに喜び、尊い御子を得たとして三貴子《さんきし》とたたえた。そしてアマテラスには高天原、ツクヨミには夜之食国《よるのおすくに》、スサノオには海原を治めるよう命じた。
『日本書紀』では誕生の物語が異なり、イザナギとイザナミが日の神に続いて月の神を生んだとする本文のほか、イザナギが右手に白銅鏡《ますみのかがみ》を持ったときに月の神が生まれたとする異伝もある。伝承によって誕生の方法は異なるが、ツクヨミが太陽に次ぐ光を持ち、夜の世界を治める尊い神である点は共通している。
出典・参考:『古事記』、『日本書紀』、國學院大學 古典文化学事業「月読命」
ツクヨミの神名には、月の満ち欠けを読み取る神という意味があると考えられている。『古事記』では月読命、『日本書紀』では月神、月弓尊《つくゆみのみこと》、月夜見尊《つくよみのみこと》、月読尊などと記される。月読は月齢を数えること、月夜見は暗い夜を照らす月を見ること、月弓は弓のように細い月を表すという説がある。
古代の人々にとって月の満ち欠けは、日や季節の移り変わりを知る重要な目印であった。種まきや収穫、祭りを行う時期を定める暦とも深く関わるため、ツクヨミは暦や農耕を守る神として信仰されるようになった。『万葉集』でも月そのものをツクヨミと呼び、月を数えることで季節を知る歌が詠まれている。
『日本書紀』の一書には、ツクヨミが海原を治めるよう命じられたとする伝承もある。月の動きが潮の満ち引きと結びつくことから、月の神は海や漁業、航海を守る神としても信仰されたのである。ツクヨミは夜空を照らすだけでなく、暦を通じて農作業を導き、潮を通じて海の営みを支える神でもある。
出典・参考:『古事記』、『日本書紀』、『万葉集』、國學院大學 古典文化学事業「月読命」
『日本書紀』の一書によれば、アマテラスはツクヨミに、葦原中国《あしはらのなかつくに》にいる保食神を訪ねるよう命じた。保食神は月の神を迎えるため、陸へ顔を向けて口から米を出し、海へ向かって魚を出し、山へ向かって獣を出した。そしてそれらを整え、ツクヨミをもてなそうとした。
ところが、その様子を見たツクヨミは、口から出した物を食べさせるとは汚らわしいと激怒し、剣を抜いて保食神を斬り殺してしまった。報告を聞いたアマテラスは、ツクヨミを悪い神であると怒り、もう顔を合わせないと告げた。これにより太陽と月は離れ、一日一夜を隔てて現れるようになったと伝えられている。
アマテラスが天熊人を遣わして保食神の亡骸を調べさせると、そこから牛や馬、蚕、稲、粟、麦、豆などが生まれていた。アマテラスはこれらを人々の食物とするために育てさせた。この物語は太陽と月が別々に現れる由来であると同時に、穀物や養蚕の起源を語る神話でもある。なお、『古事記』のよく似た物語では、保食神ではなくオオゲツヒメをスサノオが殺しており、ツクヨミは登場しない。
出典・参考:『日本書紀』、『古事記』、國學院大學 古典文化学事業「月読命」
ツクヨミは、現在ではアマテラスの弟にあたる男神として描かれることが多い。しかし、『古事記』や『日本書紀』には、ツクヨミを明確に男神と定める記述はない。アマテラスやスサノオと比べると登場する場面も極端に少なく、その姿や性格について詳しく語られていない神である。
一方、『万葉集』には月を月人壮士《つきひとおとこ》や月読壮士《つくよみおとこ》と呼ぶ歌があり、月を若い男性の姿で捉えた表現が見られる。また、伊勢神宮ではツクヨミをアマテラスの弟神と伝えている。こうした古代の歌や後世の信仰によって、ツクヨミを男神とする認識が広まったと考えられる。
三貴子のうち、アマテラスは天岩戸や天孫降臨、スサノオはヤマタノオロチ退治など多くの神話を持つ。それに対してツクヨミは、夜之食国を任された後、『古事記』の物語から姿を消してしまう。月のように静かで、姿を現しては隠れる神であることが、かえってツクヨミを神秘的な存在にしているのである。
出典・参考:『古事記』、『日本書紀』、『万葉集』、國學院大學 古典文化学事業「月読命」、伊勢神宮公式サイト「域外の別宮」
伊勢神宮では、ツクヨミが内宮と外宮の双方の別宮に祀られている。内宮の別宮は月読宮《つきよみのみや》で、月読尊を祀る月読宮、荒御魂《あらみたま》を祀る月読荒御魂宮、父母神を祀る伊佐奈岐宮と伊佐奈弥宮の四つの宮が並んでいる。
月読宮では、ツクヨミをアマテラスの弟神であり、月の満ち欠けを教えて暦を司る神としている。荒御魂は、神が特に活発で顕著な力を現す働きをたたえたものである。ツクヨミの和やかな働きと力強い働きが、それぞれ別の宮に祀られているのである。
外宮の別宮は月夜見宮《つきよみのみや》で、月夜見尊とその荒御魂を一つの社殿に祀っている。月読と月夜見で表記は異なるが、ともに月の神ツクヨミを指す。月夜見宮は古く高河原と呼ばれた場所にあり、川の流れや農耕とも深い関係を持ってきた。神話では登場の少ないツクヨミだが、伊勢では正宮に次ぐ別宮に鎮まる重要な神として、長く祭祀を受けている。
出典・参考:『古事記』、『日本書紀』、伊勢神宮公式サイト「域外の別宮」
『日本書紀』によれば、顕宗天皇《けんぞうてんのう》三年(487)、阿閉臣事代《あへのおみことしろ》が朝鮮半島の任那《みまな》へ派遣される途中、月神が人に憑依して託宣を下した。月神は、自分の祖であるタカミムスビが天地を造る働きに関わったと語り、土地を奉れば人々に幸福を与えると告げた。
事代が都へ戻って奏上すると、朝廷は山背国《やましろのくに・現在の京都府》葛野郡の歌荒樔田《うたあらすだ》を月神へ奉った。そして月神の子孫と称する壱岐の押見宿禰《おしみのすくね》が神社を造り、祭祀に奉仕した。これが京都市西京区に鎮座する月読神社の始まりと伝えられている。
押見宿禰の一族は、壱岐国《いきのくに・現在の長崎県壱岐市》を本拠とし、亀の甲羅を用いる占いに関わった氏族であった。月の満ち欠けは暦や潮の動きを知る手がかりであり、海上を移動する人々にとっても重要である。月読神社の由緒は、ツクヨミが暦、占い、航海を導く神として、海に囲まれた壱岐から都へ伝えられたことを示す物語である。
出典・参考:『日本書紀』、月読神社公式サイト「月読神社由来」、國學院大學 古典文化学事業「月読命」
出典文献
古事記
日本書紀
先代旧事本紀
山城国風土記 逸文
神格
ご神徳
別称・異称
つきよみのみこと
古事記/先代旧事本紀
月弓尊つくゆみのみこと
日本書紀/先代旧事本紀
月夜見尊つくよみのみこと
日本書紀/先代旧事本紀
月読尊つくよみのみこと
日本書紀/先代旧事本紀/山城国風土記 逸文
祀られている主な神社
月山神社(出羽三山神社)
(山形県庄内町立谷沢本沢31)
今宮戎神社
(大阪府浪速区恵美須西1-6-10)
青麻神社
(宮城県宮城野区岩切字青麻沢32 )
鳥海山大物忌神社
(山形県遊佐町吹浦字布倉1)
賀蘇山神社
(栃木県鹿沼市入粟野尾鑿713)
