タケミナカタ 神社の神様 - 神社ファン

タケミナカタ

たけみなかた

  • 神話・伝説
  • 男神・男性
タケミナカタ

玉蘭斎貞秀(神佛図會)

タケミナカタ

萩野由之(少年日本歴史読本)

祭神ランキング9位

タケミナカタとは?

タケミナカタは古事記などに登場する男神である。古事記と先代旧事本紀では建御名方神と記し、その他の国史では南方刀美神、御名方富命神、建御名方富命などと表記する。また、健御名方刀美神、武南方富命などの異名も持ち、諏訪大社(長野県諏訪市ほか)の祭神であることから諏訪神、諏訪大明神、お諏訪さまなどとも呼ばれる。父は大国主で、コトシロヌシとは兄弟神とされる。先代旧事本紀では大己貴神と高志沼河姫の子とされる。タケミナカタは古事記の国譲りの段に登場する。高天原から国譲りを迫られた際、タケミカヅチに千引石を持って力比べを挑む。しかしタケミカヅチに敗れ、科野国(長野県)の州羽海、現在の諏訪湖まで追われた。そこでタケミナカタは州羽海から出ないこと、大国主やコトシロヌシの命に背かないこと、葦原中国を天津神に譲ることを誓い、許されたと古事記は伝える。
一方、諏訪の信仰には古事記の国譲り神話だけでは説明できない独自の伝承が数多く残されている。諏訪大社にタケミナカタが祀られるようになった理由を、古事記の「諏訪まで逃れた」という逸話だけに求めることはできない。諏訪では古くから土地の信仰と結びつき、狩猟、農耕、水、風、軍神など多面的な神格を持つ神として信仰されてきた。
諏訪湖で冬に見られる御神渡りは、上社の男神であるタケミナカタが下社に祀られる妻の八坂刀売神のもとへ渡る道であると伝えられている。また、中世以降には武神としての信仰が強まり、武士から諏訪大明神として厚く崇敬された。
これらのことから、タケミナカタのご利益は武運長久、農業守護、狩猟守護、五穀豊穣、家内安全、国土安穏、交通安全、開運長寿などとされる。
タケミナカタは諏訪大社(長野県)を中心として、全国各地の諏訪神社で広く祀られている。

エピソード

国譲りとタケミカヅチ
タケミナカタが『古事記』に登場するのは、葦原中国《あしはらのなかつくに》の国譲りの場面である。高天原から遣わされたタケミカヅチ大国主に国を譲るよう迫ると、大国主は子のコトシロヌシに判断を委ねる。コトシロヌシが国譲りを受け入れた後、千引石《ちびきのいわ》を手先で持ち上げながら現れたのが、もう一柱の子タケミナカタだった。
タケミナカタはタケミカヅチに力比べを挑み、その手をつかもうとした。するとタケミカヅチの手は氷柱となり、さらに剣の刃へと変化したため、タケミナカタは恐れて退いた。今度はタケミカヅチがタケミナカタの手を取ると、若い葦をつかむように握り潰して投げ飛ばした。
敗れたタケミナカタは逃走し、科野国《しなののくに》(長野県)の州羽海《すわのうみ》、現在の諏訪湖まで追い詰められる。殺されそうになったタケミナカタは、この地から出ないこと、大国主とコトシロヌシの命令に背かないこと、葦原中国を天つ神へ譲ることを誓い、命を許された。
『古事記』におけるタケミナカタは国譲りに最後まで抵抗した神であり、この神話によって諏訪と結びつけられている。ただし、後世の諏訪では敗者としてではなく、強大な力を持つ諏訪明神として独自の信仰を形成していく。

出典・参考:『古事記』、國學院大學 古典文化学事業



諏訪に鎮まったタケミナカタ
『古事記』ではタケミナカタがタケミカヅチに敗れ、科野国《しなののくに》(長野県)の州羽海《すわのうみ》まで逃れて、この地から出ないと誓ったところで物語が終わる。しかし、諏訪地方にはタケミナカタがどのように諏訪へ入ったのかを語る独自の伝承が形成された。
南北朝時代の『諏訪大明神絵詞』には、諏訪へ入ろうとした諏訪明神と、土地の神である洩矢神が争ったという伝承が記されている。洩矢神は鉄輪を持ち、明神は藤の枝を持って争い、明神が勝利したとされる。この伝承では、タケミナカタは単に国譲りで諏訪へ逃げ込んだ神ではなく、諏訪へ進出して土地の神を従えた神として語られている。
ただし、この洩矢神との争いは『古事記』にはなく、後世の諏訪信仰の中で伝えられた物語である。『古事記』の国譲り神話と、諏訪地方に伝わる入諏伝承は区別して理解する必要がある。
諏訪ではタケミナカタは信濃国を開拓した神とも信仰され、諏訪大社を中心に地域の守護神として大きな神格を持つようになった。国譲りで敗れて諏訪へ至る神話と、諏訪を治める大神としての信仰の間には、長い信仰史の展開があるのである。

出典・参考:『古事記』、『諏訪大明神絵詞』、國學院大學 古典文化学事業、諏訪大社



八坂刀売神と御神渡り
諏訪信仰でタケミナカタと対をなす神が、妃神とされる八坂刀売神である。八坂刀売神は『古事記』『日本書紀』には登場せず、後世の史料に名が見える神であり、諏訪大社ではタケミナカタとともに重要な祭神となっている。
二神の関係を象徴する伝承として知られるのが、冬の諏訪湖に現れる「御神渡り《おみわたり》」である。厳しい冷え込みによって諏訪湖が全面結氷すると、氷の膨張と収縮によって湖面に亀裂が走り、盛り上がった氷の筋ができることがある。諏訪ではこれを、上社の男神タケミナカタが下社の女神八坂刀売神のもとへ通った道筋と伝えてきた。
御神渡りは自然現象であると同時に、諏訪の神々の物語と結びついた信仰でもある。現在も御渡りが出現すると八剱神社による神事が行われ、その筋の方向などからその年の世相や農作物の豊凶などを占う伝統が残る。
『古事記』のタケミナカタは国譲りで諏訪へ追われたところまでしか語られない。八坂刀売神との夫婦神としての姿や御神渡りの伝承は、諏訪の地で育まれた信仰によって加わったタケミナカタの新たな神格を示している。

出典・参考:諏訪大社、諏訪市博物館、諏訪地方観光連盟



狩猟を守る諏訪明神
タケミナカタを祀る諏訪信仰の大きな特徴の一つが、狩猟との深い結びつきである。諏訪大社ではタケミナカタを農業・狩猟などの守護神としており、諏訪地方には狩猟や動物の供犠を伴う独特の神事が伝えられてきた。
仏教の影響によって殺生が罪とされた時代にも、諏訪では狩猟が信仰の中に位置づけられていた。諏訪大社には、諏訪明神から授けられる神符によって鹿肉を食べることが許されるという信仰があり、狩猟を生活の糧とする人々からも崇敬された。中世には「諏訪の勘文」と呼ばれる文言が知られ、殺生を伴う狩猟を諏訪明神の神意によって受け止める信仰が形成されていた。
また、上社では御射山御狩神事《みさやまみかりしんじ》など狩猟と結びつく祭祀が行われ、諏訪明神の狩猟神としての性格を強く示している。これは『古事記』の国譲りだけから説明できる神格ではなく、諏訪の自然環境や地域社会の中で形成された信仰である。
タケミナカタは国譲りに登場する神であると同時に、諏訪では人々の生業を支える狩猟の神として独自の姿を持つようになった。この神格は、後に武士が諏訪明神を崇敬する背景の一つにもなっていく。

出典・参考:諏訪大社、諏訪市博物館



雨風と水を司る神
タケミナカタは武神として有名だが、諏訪では雨風や水、五穀豊穣を守る神としても信仰されてきた。諏訪大社は、建御名方神を往古より雨や風を司り、信濃国を開拓した力の強い神として、農業・狩猟・航海・勝負の守護神と説明している。
諏訪湖を中心とする地域では、水は農耕や生活を支える一方、風雨は豊作にも災害にもつながる。諏訪の神が雨風や水を司る神として信仰されたことは、こうした土地の自然環境とも深く関わる。『日本書紀』持統天皇5年(691)8月条には、使者を遣わして竜田の風神とともに「信濃の須波・水内等の神」を祭らせた記事があり、古くから朝廷の祭祀対象となっていたことが確認できる。
一方、タケミナカタという神名そのものを「水の方」と解し、水神であることの直接的な根拠とする説もあるが、神名の語源には複数の説があり確定していない。そのため、神名の意味だけから水神と断定することはできない。
重要なのは、諏訪で実際に雨風・水・農耕を守る神として長く信仰されてきたことである。武神、狩猟神という性格とともに、自然と人々の生業を守る神格が重なって、諏訪明神の幅広い信仰が形づくられている。

出典・参考:『日本書紀』、諏訪大社、國學院大學 古典文化学事業



全国へ広がった諏訪信仰
タケミナカタへの信仰は諏訪地方だけにとどまらない。諏訪大社は全国各地に鎮座する諏訪神社の総本社であり、タケミナカタ信仰の中心である。、タケミナカタは「諏訪大神」「お諏訪さま」として各地で祀られている。
諏訪信仰が大きく広がった背景には、武士との結びつきがある。中世には諏訪明神が武勇の神として崇敬され、鎌倉幕府や東国武士との関係を深めた。諏訪大社の御射山御狩神事《みさやまみかりしんじ》には武将たちが参加し、諏訪明神への信仰は武士の活動とともに各地へ伝えられていった。各地に勧請された諏訪社では、武運だけでなく農耕、狩猟、風雨、水、開拓など地域の暮らしに関わる神としても信仰された。
そのため、現在のタケミナカタは『古事記』の国譲りに一度だけ登場する神という姿だけでは捉えきれない。諏訪の土地で諏訪明神として独自の信仰を形成し、さらに中世以降にその信仰が全国へ広がったことで、日本各地で祀られる有力な神の一柱となったのである。
国譲りで諏訪へ至った神が、その土地の信仰と結びついて諏訪大神となり、全国の諏訪神社へ広がっていく。この展開は、神話上の神が地域信仰を通じて新たな神格を獲得していく代表的な例といえる。

出典・参考:諏訪大社、神社本庁、諏訪市博物館



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出典文献

古事記

先代旧事本紀

延喜式

続日本後紀

神格

狩猟の神 農業の神 軍の神 武道の神 五穀豊饒の神

ご神徳

武運長久 農業守護 狩猟守護 五穀豊穣 家内安全 国土安穏 交通安全 開運長寿

別称・異称

建御名方神

たけみなかたのかみ

古事記/先代旧事本紀

南方刀美神

みなかたとみのかみ

延喜式

健御名方富命

たけみなかたとみのみこと

続日本後紀

健南方刀美命

たけみなかたとみのみこと

その他

健南方命

たけみなかたのみこと

その他

健南方富命

たけみなかたとみのみこと

その他

健御名方命

たけみなかたのみこと

その他

建南方主神

たけみなかたぬしのかみ

その他

建南命

たけみなかたのみこと

その他

建南方富命

たけみなかたとみのみこと

その他

建御名刀美命

たけみなみとみのみこと

その他

建御名方之命

たけみなかたのみこと

その他

建御名方冨大神

たけみなかたとみのおおかみ

その他

建御名方刀美命

たけみなかたとみのみこと

その他

建御名方富命

たけみなかたとみのみこと

その他

建美名方命

たけみなかたのみこと

その他

建美那方神

たけみなかたのかみ

その他

武御名方命

たけみなかたのみこと

その他

津御名方命

たけみなかたのみこと

その他

神様グループ

諏訪大神 

祀られている主な神社

諏訪大社 上社本宮
(長野県諏訪市大字中洲字宮山1)
諏訪大社 下社秋宮
(長野県下諏訪町5828)
諏訪大社 下社春宮
(長野県下諏訪町193)
札幌諏訪神社
(北海道東区北12条東1丁目1番10号)
平潟神社
(新潟県長岡市表町1丁目6番地1)