天火明命 神社の神様 - 神社ファン

天火明命

あめのほあかり

  • 神話・伝説
  • 男神・男性

祭神ランキング143位

天火明命とは?

天火明命は記紀神話などに登場する男神である。『古事記』ではアメノオシホミミと高木神の娘である万幡豊秋津師比売命の子で、高千穂へ降臨するニニギの兄とされる。『日本書紀』では天忍穂耳尊の子とする伝承のほか、瓊瓊杵尊の子とする一書などもあり、火明命の系譜は伝承によって異なっている。また、天照国照彦火明命などの名でも記される。
神名の「天照国照」や「火明」から、太陽の光や明るさに関係する神とみる説がある。また、「ホ」を稲穂の穂と結びつけ、稲穂が実り色づく様子を表す神名と解釈する説もあり、農業や五穀豊穣に関わる神として信仰されている。
『先代旧事本紀』では天火明命をニギハヤヒと同一神とし、天照国照彦天火明櫛玉饒速日尊などの名で伝えている。ただし、『古事記』『日本書紀』では天火明命とニギハヤヒはそれぞれ別に登場するため、両神の同一視は後世に成立した系譜・伝承として区別する必要がある。また、『先代旧事本紀』などでは天香山命を天火明命の子とし、天火明命は尾張氏などの祖神として位置づけられている。丹後の海部氏も祖神として奉斎してきたと伝えられる。
なお、『播磨国風土記』には大汝命の子である火明命が登場し、父に置き去りにされたことを怒って風波を起こし、船を破壊したという伝承が記されている。しかし、この火明命は記紀の天火明命とは系譜が異なり、同一神と断定することはできない。
天火明命は尾張氏や海部氏などの祖神として信仰され、五穀豊穣、産業守護、子孫繁栄などの神徳で崇敬されている。代表的な神社に愛知県一宮市の真清田神社、京都府宮津市の籠神社などがある。

エピソード

ニニギの兄として記された天火明命
『古事記』の天孫降臨段では、アメノオシホミミが高木神の娘である万幡豊秋津師比売命と結ばれ、天火明命とニニギが生まれたと記される。天火明命は兄、ニニギは弟に当たるが、高天原から葦原中国へ降臨する役目を担うのは弟のニニギである。『古事記』には天火明命自身の降臨や活動を語る物語がなく、その名は天孫の系譜を示す箇所に現れるだけである。
『日本書紀』では系譜がさらに複雑になる。第九段の第六と第八の一書では、天火明命または天照国照彦火明命を天忍穂耳尊の子、瓊瓊杵尊の兄とする。一方、本文を含む複数の伝承では火明命を瓊瓊杵尊の子とし、別の一書では天杵瀬命の子としている。表記に天を冠するかどうか、誕生の経緯や父神が誰かという点も一致しない。
したがって、記紀に現れるすべての火明命を一人の神としてまとめることはできない。天火明命をニニギの兄とする系譜は『古事記』と『日本書紀』の一部の伝承に基づくものであり、父神とする説は別系統の異伝である。複数の系譜が伝えられたこと自体が、各氏族の祖神伝承が記紀神話へ組み込まれていった過程をうかがわせる。

出典・参考:『古事記』上巻、『日本書紀』神代下第九段、國學院大學古典文化学事業「天火明命」



播磨国風土記の火明命は同じ神なのか
『播磨国風土記』の餝磨郡《しかまのこおり》には、火明命とその父である大汝命の物語が収められている。火明命の性質や行動が激しかったため、大汝命は因達神山《いだてのかみやま》で火明命を水汲みに行かせ、その間に船を出して置き去りにしようとした。これを知った火明命が風波を起こすと、大汝命の船は破壊され、船の各部分が落ちた場所に由来するという地名が列挙される。現在の兵庫県姫路市周辺に伝えられた地名起源譚である。
この話は天火明命の激しい性格を示す逸話として紹介されることがある。しかし、『播磨国風土記』の火明命は大国主に当たる大汝命の子であり、天忍穂耳命の子とする『古事記』の天火明命とは系譜が一致しない。神名が似ていても、古代の文献に記された神々を直ちに同一神とみなすことはできないのである。
このため、風土記の火明命を天火明命と関連付けて紹介する場合には、同一神説がある一方で別神とする見方もあることを明記する必要がある。この逸話は天火明命の性格を確定する物語ではなく、播磨国に伝わった別系統の火明命伝承として読むのが適切である。

出典・参考:『播磨国風土記』餝磨郡、兵庫県「播磨国風土記」、國學院大學古典文化学事業「天火明命」



ニギハヤヒとの同一視は後世に成立した
『古事記』と『日本書紀』では、天火明命とニギハヤヒは別々の神として登場する。天火明命は天孫の系譜に名を連ねる一方、ニギハヤヒは神武天皇より先に大和へ天降り、長髄彦《ながすねびこ》に仕えていた神として描かれる。記紀本文には、両神を同一神とする説明はない。
両神を結び付けた代表的な文献が、平安時代前期に成立したと考えられる『先代旧事本紀』である。同書はニギハヤヒを天照国照彦天火明櫛玉饒速日尊と記し、天火明命をその別名に挙げる。これによって、尾張氏などの祖神である天火明命と、物部氏の祖神であるニギハヤヒが一柱の神として整理された。さらに天火明命の子を天香山とする系譜も同書などに伝えられている。
ただし、『先代旧事本紀』は記紀より後に編纂された文献であり、その同一視をそのまま記紀神話へ遡らせることはできない。天火明命とニギハヤヒについては、記紀では別神、『先代旧事本紀』では同一神という資料ごとの違いを保つことが重要である。この同一神説は、尾張氏と物部氏の祖神系譜が後世に接続された例として、古代氏族の結び付きを考えるうえで大きな意味を持っている。

出典・参考:『古事記』上巻、『日本書紀』神武天皇即位前紀、『先代旧事本紀』天神本紀・天孫本紀、國學院大學古典文化学事業「邇芸速日命」



尾張氏の祖神から尾張国の守護神へ
天火明命は、古代氏族である尾張氏の祖神として伝えられてきた。『新撰姓氏録』には天火明命を祖とする氏族の系譜が収められ、後世の『先代旧事本紀』では天火明命から天香山へ続く系譜が詳しく記されている。『古事記』にはこの父子関係が記されていないため、天香山命を子とする伝承は、記紀とは別の氏族系譜に基づくものとして区別する必要がある。
尾張国中島郡、現在の愛知県一宮市に鎮座する真清田神社では、天火明命を主祭神とする。同社は平安時代の『延喜式』神名帳に名神大社として載り、後に尾張国一之宮として崇敬された。神社では天火明命を尾張開拓の祖と伝え、国土開拓、産業守護、子孫繁栄などの神徳を仰いでいる。現在の一宮市という市名も、同社が尾張国一之宮であったことに由来する。
天火明命は記紀の中で具体的な事績をほとんど語られない神であるが、尾張地方では氏族の祖から地域を守る神へと信仰が広がった。神話本文の短い記述だけでは捉えきれない天火明命の姿は、真清田神社における長い祭祀と、尾張氏の祖神伝承の中に明瞭に残されている。

出典・参考:『新撰姓氏録』、『先代旧事本紀』天孫本紀、『延喜式』神名帳、真清田神社「由緒」、一宮市「いちのみや あれこれ 真清田神社のご祭神」



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出典文献

新撰姓氏録

播磨国風土記

延喜式

神格

太陽神 農業神

ご神徳

五穀豊穣 開運厄除 子孫繁栄 家内安全 病気平癒

別称・異称

天火明命

あめのほあかりのみこと

古事記/日本書紀/新撰姓氏録

火明命

ほあかりのみこと

日本書紀/新撰姓氏録/播磨国風土記

天照国照彦火明命

あまてるくにてるひこほあかりのみこと

日本書紀

天照玉命

あまのてるたまのみこと

延喜式

天照国照火明命

あまてるくにてるほあかりのみこと

その他

祀られている主な神社

真清田神社
(愛知県一宮市真清田1丁目2−1)
村国神社
(岐阜県各務原市各務おがせ町3丁目46番地の1)
村国真墨田神社
(岐阜県各務原市鵜沼山崎町1丁目108番地)
石座神社
(愛知県岡崎市石原町字宮ノ入3)
小塞神社
(愛知県一宮市浅井町尾関字同者6番)