全国最大級を誇る国指定重要文化財の五輪塔
頓宮の南門を抜けて右へ進み、回廊沿いを歩くと「五輪塔(航海記念塔)」があります。高さ約6mを誇る全国最大級の五輪塔で、鎌倉時代を代表する石造文化財として知られています。石清水八幡宮の神仏習合の歴史を今に伝える貴重な遺構であり、境内を代表する見どころの一つです。
五輪塔は、主に供養塔や墓塔として造られた石塔で、密教の思想に基づく「地・水・火・風・空」の五大を表しています。下から方形の地輪、球形の水輪、笠形の火輪、半月形の風輪、宝珠形の空輪で構成され、人が自然へ還る姿や宇宙の成り立ちを象徴しています。神社の境内でこれほど大規模な五輪塔が現存する例は多くなく、神仏習合の歴史を色濃く伝える文化財としても高い価値があります。
この五輪塔の建立目的は現在も明らかになっておらず、さまざまな説が伝えられています。一説では、宋(中国)との貿易を行っていた尼崎の商人が、航海中に嵐へ遭遇した際、石清水八幡宮へ祈願したことで海難を逃れ、その感謝のしるしとして建立したことから「航海記念塔」と呼ばれるようになったとされています。そのほか、鎌倉時代の武士を供養する「武者塚」とする説や、石清水八幡宮を勧請した行教律師の墓とする説などもあり、建立の由来にはさまざまな伝承が残されています。また、江戸時代以前には「忌明塔」とも呼ばれ、四十九日の忌明けを終えた人々が参拝し、喪の穢れを清めたとも伝えられています。
その歴史的・美術的価値は高く評価され、1929年(昭和4年)に国の重要文化財に指定されました。鎌倉時代の優れた石造技術を今に伝える貴重な文化財であるとともに、建立の由来に謎を残す神秘的な存在でもあります。諸説ある歴史に思いを巡らせながら見学すると、石清水八幡宮が歩んできた長い歴史や信仰の深さをより身近に感じられるでしょう。