金山毘売神
かなやまひめのかみ
- 神話・伝説
- 女神・女性

祭神ランキング118位
金山毘売神とは?
金山毘売神は古事記などに登場する女神である。カナヤマヒメノカミと読み、金山姫神、金山媛神、金山姫命、金山媛命などとも表記される。日本書紀には金山毘売神の名は登場しないが、一書にはイザナミの嘔吐物から金山彦が生まれたとする類似した伝承が記されている。
古事記の神産みにおいて、イザナミは火の神カグツチを産んだことで女陰に大火傷を負い、病み伏した。その際に吐いた嘔吐物から金山毘古神と金山毘売神が生まれた。二神は男女一対をなす鉱山・金属の神として信仰されているが、古事記には兄妹や夫婦であるとは記されていない。
神名の「金山」は鉱山を意味すると考えられ、金山毘売神は鉱山や鉱物を神格化した神とされる。嘔吐物から生まれた理由については、溶けた鉱物の姿を嘔吐物に見立てたとする説や、鉱石が火によって金属へと変化する冶金の様子を表したとする説などがある。火の神カグツチの誕生に伴って生まれたことからも、火によって鉱石を加工する製鉄・鋳造・鍛冶との深い関係が見いだされている。
後世には金山毘古神とともに鉱山、製鉄、鋳造、鍛冶、金属工業などの守護神として広く信仰された。鍛冶職人や鋳物師などからも崇敬され、鞴を用いて火を起こす鍛冶・製鉄の技術にちなみ、両神を祀る神社では「ふいご祭り」が行われるところもある。尾張鍛冶との関係が深い金山神社(愛知県名古屋市)でも、金山毘古神とともに祀られている。
また、たたら製鉄の守護神として知られる金屋子神とも深く結びつき、後世の縁起や民間信仰では金山毘古神・金山毘売神との親子関係や同一視など、さまざまな伝承が生まれた。三神を結びつけた金山大明神などの信仰もみられる。ただし、金山毘古神と金山毘売神の間に金屋子神が生まれたという系譜は記紀に記されたものではなく、後世に成立した製鉄信仰に属する伝承である。
さらに地域によっては、カグツチを出産したイザナミが女陰に火傷を負った神話とも結びつき、下半身の病気や安産などを守護する神として信仰されている。川崎市の金山神社などでは、子授け、安産、夫婦和合、下半身の病気などに関する信仰が発達している。
金山毘売神には鉱山守護、金属工業守護、製鉄・鋳造・鍛冶守護、金運上昇、商売繁昌、開運招福、災難除け、厄除け、下半身治癒、子授け、安産祈願などのご利益があるとされる。
金山毘売神は金山媛神社(大阪府柏原市)、金山神社(愛知県名古屋市)をはじめ、全国の金山神社などで祀られている。
エピソード
『古事記』では、イザナミが火の神カグツチを産んだ際、陰部を焼かれて病み伏したと記されている。その苦しみの中で吐いた嘔吐物から、金山彦神と金山毘売神が現れた。続いて排泄物からハニヤスヒコとハニヤスビメ、尿から水神ミヅハノメなどが生まれている。
この場面は、汚れたものから神が生まれたというだけの奇異な物語ではない。火、金属、土、水、作物の生成へとつながる神々が、イザナミの死に至る身体から次々に現れている。火が物を焼き、溶かし、別の性質へ変える力と、死や排泄物から新しい生命や資源が生じるという古代の観念が重ねられていると考えられる。
『日本書紀』一書にも、イザナミがカグツチを産んで苦しみ、嘔吐したものから金山彦が生まれたという類似伝承がある。ただし、そこに金山毘売神の名はない。男女一対の鉱山神が生まれるのは『古事記』の特徴であり、両神を兄妹や夫婦とする説明も本文にはない。二神は系譜上の関係より、鉱山を司る男神と女神の対として描かれたのである。
出典・参考:『古事記』神生み、『日本書紀』巻第一「神代上」一書、國學院大學「伊耶那美の神避り」「金山毘売神」
金山毘売神の金山は、金だけを産出する山ではなく、鉱物を採取する鉱山を意味すると考えられている。『古事記』の天岩戸神話にも、鏡の材料を得る場所として天の金山が登場する。古代のカネは金・銀・銅・鉄などの金属を広く表す言葉であり、金山毘売神は鉱石の採取から精錬・鋳造・鍛冶まで、金属生産全体に関わる女神へと発展した。
嘔吐物から生まれた理由には複数の解釈がある。高温で溶けた鉱石が炉から流れ出す様子を嘔吐に重ねたとする説、火山の噴火と溶岩、その中に含まれる鉱物を表したとする説、鉱石が火によって金属へ変化する過程を、食物が体内で別の物へ変化することに重ねたとする説などである。また、カグツチの後に生まれることから、冶金に利用される火の働きを表す神とする見方もある。
したがって、吐瀉物に似ているから鉱山神になったと一つの説だけで説明することはできない。重要なのは、火によって山の石から有用な金属が取り出される変化である。金山毘売神は、地中に眠る鉱物を人間の生活を支える道具へ変える、採鉱と冶金の神なのである。
出典・参考:『古事記』神生み・天石屋戸、國學院大學「金山毘売神」「金山毘古神」
『延喜式』神名帳の河内国大県郡《かわちのくにおおがたのこおり・現在の大阪府柏原市周辺》には、金山孫女神社と金山孫神社が記載されている。現在の金山媛神社と金山彦神社にあたり、金山毘売神と金山彦神をそれぞれ祀る神社と考えられている。周辺からは鉄滓《てっさい》が発見され、大規模な鉄器生産に携わった集団との関係が指摘されている。
愛知県名古屋市の金山神社でも、両神を鍛冶・鋳造の祖神として祀る。同社の鎮座地は尾張鍛冶発祥の地と伝えられ、毎年11月8日には鞴《ふいご》祭が行われる。鞴は炉へ風を送り、金属を精錬・加工するために欠かせない道具である。祭りには鍛冶師、刀工、鋳物師など火を扱う職人の安全と技術向上を願う信仰が受け継がれている。
栃木県日光市の足尾銅山では、明治22年(1889)に鉱山の繁栄と安全を願って本山鉱山神社が建立され、大山祇命・金山彦命とともに金山姫命が祀られた。建立には採鉱、選鉱、製錬、運搬など鉱山で働く多数の人々が献金している。金山毘売神は、古代の鉄器生産から近代の大規模鉱山まで、金属を扱う現場の安全と繁栄を守り続けてきたのである。
出典・参考:『延喜式』神名帳、國學院大學「金山毘売神」、三郷町「金山媛神社・金山彦神社」、名古屋市熱田区「金山神社ふいご祭」、日光市「本山鉱山神社」
中国地方のたたら製鉄では、金屋子神が製鉄の守護神として篤く信仰されてきた。島根県安来市の金屋子神社では金山彦神と金山姫神を祭神とし、山陰・山陽を中心とする製鉄業者、鋳物師、鍛冶師から広い信仰を集めた。現在のたたら操業でも、炉の近くに金屋子神を祀り、作業の安全と良質な鉄の生成を祈る習慣が受け継がれている。
しかし、金屋子神は『古事記』『日本書紀』には登場しない。金山彦神と金山毘売神の子とする系譜や、金山毘売神自身を金屋子神とする説は、たたら製鉄の担い手たちが伝えた後世の縁起や信仰によるものである。地域や資料によって、金屋子神を女神、男神、夫婦神とするなど神格にも違いがある。
『鉄山必用記事』などに伝わる降臨譚では、金屋子神は播磨国《はりまのくに・現在の兵庫県南西部》へ降り、その後、白鷺に乗って出雲国《いずものくに・現在の島根県東部》へ移り、人々に製鉄を教えたとされる。これは記紀の神生みとは異なる独自の製鉄神話である。金山毘売神と金屋子神は古典上では別の神だが、金属生産を守る共通の神格によって結び付けられ、現実の祭祀では重なり合って信仰されてきたのである。
出典・参考:島根県神社庁「金屋子神社」、島根県観光連盟「金屋子神社」、鉄の道文化圏推進協議会「金屋子神を祀る人たち」、山崎亮「金屋子神縁起類の諸相」
神奈川県川崎市の若宮八幡宮境内に鎮座する金山神社では、金山比古と金山比売を祀る。もとは鍛冶や金属加工を守る神だが、現在はかなまら様とも呼ばれ、安産、子孫繁栄、夫婦和合、下半身の病気を守る神として知られている。春の例祭であるかなまら祭と、11月の鞴祭の両方が行われている点に、金属の神と身体を守る神という二つの信仰が表れている。
同社には、イザナミがカグツチを産んで下半身に大火傷を負った際、金山比古・金山比売が看護したため、安産や下半身治癒の神になったという伝承がある。ただし、『古事記』では両神はイザナミの嘔吐物から生まれたと記されるだけで、二神が看護したという場面はない。これは川崎の金山神社などに伝わる後世の信仰として捉える必要がある。
川崎宿では江戸時代、飯盛女たちが病気を避けるため金山神社へ祈願したと伝えられている。鍛冶に用いる金床や金属製品の形、生命を生み出す身体への信仰などが重なり、金属の守護神から性と生殖、安産、病気平癒を守る神へと神徳が広がった。下半身治癒や安産は金山毘売神の全国共通の神格ではなく、地域の生活と信仰の中で育った神徳なのである。
出典・参考:神奈川県神社庁「金山神社」、神奈川県観光協会「金山神社」、川崎市「かわさき区の宝物シート」
出典文献
古事記
先代旧事本紀
延喜式
神格
ご神徳
別称・異称
かなやまびめのかみ
古事記
金山姫神かなやまひめのかみ
先代旧事本紀
金山孫女神かなやまびめのかみ
延喜式
金山媛命かなやまひめのみこと
その他
金山比売命かなやまひめのみこと
その他
金山比女命かなやまひめのみこと
その他
金山毘売命かなやまびめのみこと
その他
神様グループ
祀られている主な神社
敢国神社
(三重県伊賀市一之宮877)
黄金山神社
(宮城県石巻市鮎川浜字金華山5番地 )
金山神社
(埼玉県西区佐知川1305)
佐毘賣山神社
(島根県益田市乙子町51番地)
青江神社
(岡山県倉敷市酒津2119)
