イワナガヒメ 神社の神様 - 神社ファン

イワナガヒメ

いわながひめ

  • 神話・伝説
  • 女神・女性
イワナガヒメ

名取春仙 - 誠文堂(やさしい古事記)

祭神ランキング84位

イワナガヒメとは?

イワナガヒメは記紀神話などに登場する女神である。『古事記』では石長比売《いわながひめ》、『日本書紀』では磐長姫と記される。山の神オオヤマツミの娘で、コノハナノサクヤビメの姉に当たる。
『古事記』では、ニニギがコノハナノサクヤビメに結婚を申し込むと、オオヤマツミは姉のイワナガヒメもともに妻として差し出した。しかし、ニニギはイワナガヒメの容姿を見て恐れ、コノハナノサクヤビメだけを妻としてイワナガヒメを父のもとへ送り返した。これを恥じたオオヤマツミは、イワナガヒメを妻とすれば天つ神の御子の命は岩のように永遠となり、コノハナノサクヤビメを妻とすれば木の花が咲き栄えるように繁栄するとの誓約を立てて二柱を差し出したことを明かした。イワナガヒメが送り返されたことで天孫の命は短くなり、天皇にも寿命が生じたと伝えられている。
一方、『日本書紀』の一書には異なる伝承もある。ニニギに拒まれたことを恥じた磐長姫が、ニニギの子孫である人々の命を木の花のようにはかなくすると誓ったため、人の寿命が短くなったとする。このように、記紀ではイワナガヒメと人の寿命をめぐる伝承に違いが見られる。
神名の「イワナガ」は、岩のように長く変わらないことを表すと考えられ、イワナガヒメは永遠性や長寿を象徴する神として信仰されている。また、京都の貴船神社では、縁結びを願ってこの地に鎮まったという独自の伝承があり、結社《ゆいのやしろ》に縁結びの神として祀られている。
イワナガヒメは、貴船神社の結社(京都府京都市)、大室山浅間神社(静岡県伊東市)、雲見浅間神社(静岡県賀茂郡松崎町)、伊豆神社(岐阜県岐阜市)などで祀られている。

エピソード

ニニギに送り返され人の寿命を変えた女神
ニニギは天孫降臨の後、笠沙の岬で美しいコノハナノサクヤビメと出会い、結婚を申し込んだ。コノハナノサクヤビメが父神に尋ねるよう答えたため、ニニギがオオヤマツミに申し入れると、オオヤマツミは喜び、多くの婚礼の品とともに姉のイワナガヒメも差し出した。
ところが、『古事記』では、ニニギはイワナガヒメの容姿を恐れて送り返し、コノハナノサクヤビメだけを妻とした。オオヤマツミはこれを恥じ、自分が二人の娘を一緒に差し出した理由を明かした。イワナガヒメを妻にすれば天つ神の御子の命は雪が降り風が吹いても岩のように永遠に変わらず、コノハナノサクヤビメを妻にすれば木の花が咲くように栄えるとの誓約を立てていたのである。
しかし、ニニギがイワナガヒメを送り返したため、天つ神の御子の命は木の花のようにはかなくなった。神である天皇やその子孫にも寿命がある理由を、この結婚によって説明する神話である。
『日本書紀』の一書にも姉妹を妻として差し出す伝承があるが、そこでは送り返されたイワナガヒメが恥じ、人の命を木の花のようにはかなくすると誓ったとされる。『古事記』ではオオヤマツミの誓約が実現しなかった結果であり、イワナガヒメ自身の呪いとはしていない。

出典・参考:『古事記』、『日本書紀』、國學院大學 古典文化学事業「石長比売」



岩の永遠と花の繁栄を担った姉妹
イワナガヒメの神名は、岩のように長く変わらない女性を意味する。岩は木や花と比べて姿を変えにくく、長い年月に耐えることから、古くから永遠性や不変性の象徴とされた。イワナガヒメは、その岩が持つ強さを天つ神の御子へ与えるために差し出された女神である。
一方、妹のコノハナノサクヤビメは、木の花が一斉に咲くような繁栄を象徴する。花は美しく咲き誇り、実を結んで子孫を増やすが、やがて散っていく。姉妹は単に美醜を対比させた存在ではなく、永遠に続く命と、華やかに栄える命という異なる力を担っていた。
オオヤマツミが二人を一緒に差し出したのは、ニニギの子孫に岩のような永遠性と花のような繁栄の両方を授けるためであった。しかし、ニニギは目に見える花の美しさを選び、岩が象徴する永遠性を退けた。その結果、子孫は栄える一方で、命には限りが生じたとされる。
この神話から、イワナガヒメは長寿、健康、延命、不老長生を守る神として信仰されるようになった。神話では妻に選ばれなかった女神であるが、人が失った永遠の命を本来授けるはずだった重要な存在なのである。

出典・参考:『古事記』、『日本書紀』、國學院大學 古典文化学事業「石長比売」「木花之佐久夜毘売」




貴船神社で良縁を授ける結びの神
京都府京都市の貴船神社では、本宮と奥宮の間に鎮座する結社《ゆいのやしろ》にイワナガヒメを祀っている。結社は中宮とも呼ばれ、古くから縁結びを願う人々の信仰を集めてきた。
貴船神社には、ニニギに送り返されたイワナガヒメが貴船の地に鎮まり、自分はここにとどまって人々に良縁を授けようと誓ったという伝承がある。記紀にはイワナガヒメが貴船へ来たことも、縁結びの神になったことも記されていないが、結婚できなかった女神だからこそ、他者の縁を結ぶ神になったとする神社独自の信仰である。
平安時代には、歌人の和泉式部が夫との関係に悩み、貴船神社を参詣したと伝えられている。和泉式部の願いがかなって夫婦の仲が戻ったという伝承から、結社は恋の宮とも呼ばれるようになった。かつては細長い草の葉を結んで祈る習わしがあり、「縁を結ぶ」という言葉の由来の一つとも伝えられる。現在は境内の草木を傷めないよう、結び文に願いを書いて納める形となっている。
ニニギとの結婚がかなわなかった神話は、イワナガヒメを悲劇の女神として終わらせなかった。貴船では、自らが得られなかった良縁を人々へ授け、恋愛、結婚、夫婦和合を守る神として信仰されている。

出典・参考:貴船神社公式サイト「結社」、京都市観光協会「貴船神社」



富士山を望む伊豆で祀られる姉神
富士山の浅間信仰では、妹のコノハナノサクヤビメが浅間大神として祀られることが多い。一方、富士山を望む伊豆半島には、姉のイワナガヒメを祀る浅間神社があり、記紀神話から発展した独自の姉妹伝承が残されている。
静岡県伊東市の大室山浅間神社では、イワナガヒメを祭神として祀る。大室山からは、コノハナノサクヤビメを祀る富士山を望むことができる。当地では、ニニギに選ばれた妹をイワナガヒメがうらやんでいるため、大室山へ登る途中で富士山をほめてはならないという伝承が生まれた。これは記紀に記された姉妹の不仲ではなく、二つの山を姉妹神に見立てた伊豆地方の民間伝承である。
静岡県賀茂郡松崎町の雲見浅間神社も、烏帽子山にイワナガヒメを祀る。山頂近くから富士山を望む場所にあり、ここでも富士山の美しさをほめることを慎む伝承が伝えられている。富士山の華やかな美しさを妹に、海辺にそびえる岩山の堅固な姿を姉に重ねた信仰と考えられる。
妹を祀る浅間神社が各地に広がる中、伊豆では岩山そのものをイワナガヒメの神体のように仰ぎ、姉神を守り続けてきた。二つの神社は、岩の永遠性を司るイワナガヒメの神格を、山の姿を通して現在へ伝えている。

出典・参考:伊東市公式観光サイト「大室山浅間神社」、松崎町観光協会「雲見浅間神社」



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出典文献

古事記

日本書紀

先代旧事本紀

神格

岩の神 寿命の神

ご神徳

延命長寿 縁結び 夫婦和合

別称・異称

石長比売

いわながひめ

古事記

磐長姫

いわながひめ

日本書紀/先代旧事本紀

石長姫

いわながひめ

先代旧事本紀

岩永姫命

いわながひめのみこと

その他

岩長姫命

いわながひめのみこと

その他

石長比女神

いわながひめのかみ

その他

磐長媛命

いわながひめのみこと

その他

磐長比咩命

いわながひめのみこと

その他

磐長比売命

いわながひめのみこと

その他

磐長毘売命

いわながびめのみこと

その他

祀られている主な神社

大山祇神社
(福島県西会津町野沢大久保甲1445-2)
岩上神社
(埼玉県本庄市児玉町太駄293-1)
冨士山小御嶽神社
(山梨県富士吉田市上吉田小御嶽下5617(里宮上吉田4202))
雲見浅間神社
(静岡県松崎町雲見386-2)
伊砂砂神社
(滋賀県草津市渋川2-2-1)