イクムスビ
いくむすび
- 神話・伝説
- 不明

玉蘭斎貞秀(神佛図會)
祭神ランキング211位
イクムスビとは?
イクムスビは『古語拾遺』『先代旧事本紀』『延喜式』などに登場する神。生魂命、生産日神、生産霊、伊久魂命などと表記される。宮中で祀られた八神の一柱で、生命を生み育てる生成化育の神とされる。
イクムスビの系譜には異なる伝承がある。『先代旧事本紀』では造化の神であるカミムスビの子とされる一方、『新撰姓氏録』ではタカミムスビの子とされ、恩智神主の祖神として記されている。このため、古くからムスビの神々と深く結びついた神であったと考えられている。
『古語拾遺』では、神武天皇の時代に天照大神とタカミムスビの神意を受け、神籬を立てて八神を祀ったとする伝承がある。後世、イクムスビは神祇官西院の八神殿に祀られ、神産日神、高御産日神、玉積産日神、足産日神、大宮売神、御食津神、事代主神とともに宮中八神を構成した。八神は天皇の身体や生活を守護する神々として重視され、イクムスビはその中でも生命力や生成に関わる神として位置づけられている。
平安時代の『延喜式』には宮中で行われる八神祭が規定されており、八神への祭祀は天皇の安泰を祈る重要な宮廷祭祀であった。天皇の生命と身体を守護することは、その統治する国家の安泰にもつながると考えられ、八神は宮廷における重要な守護神として祀られた。明治維新後には宮中祭祀の再編に伴って宮中三殿の神殿に祀られ、現在の皇室祭祀にもつながっている。
神名の「イク」は「生」「活」に通じ、生命力や生き生きとした働きを表し、「ムスビ」はものを生み出し成長させる霊妙な力を意味すると考えられている。このことからイクムスビは、生命を生み、その力を活発にして成長させる生成化育の神と解釈されている。カミムスビやタカミムスビなどと同じく、「ムスビ」という古代日本の生成・創造の観念を神格化した神の一柱である。
また、『先代旧事本紀』ではニギハヤヒが天降る際に授けられた十種神宝の一つに生玉《いくたま》があり、イクムスビをこの生玉の霊力と結びつける説もある。ただし、『先代旧事本紀』がイクムスビを生玉そのものの神格化と明記しているわけではなく、神名と神宝の性格から生じた解釈として捉えられている。
イクムスビは宮中八神の一柱として皇室祭祀の中で祀られてきたほか、八神を勧請した神社などでも祀られている。生命力や生成を司る性格から、生命の守護、健康長寿、子孫繁栄、五穀豊穣、国家安泰などの神徳が説かれている。
エピソード
イクムスビは、古代の宮中祭祀で天皇を守護した八柱の神の一柱である。『延喜式』神名帳には、神産日神、高御産日神、玉積産日神、生産日神、足産日神、大宮売神、御食津神、事代主神の八座が「御巫祭神」として記されている。御巫《みかんなぎ》と呼ばれる女性の祭祀者が奉仕し、祈年祭、月次祭、新嘗祭などに幣帛が奉られた。イクムスビは、このうち生産日神と表記された神である。
『古語拾遺』では、神武天皇の時代に天照大神とタカミムスビの命を受け、宮中に神籬を立てて八神を祀ったと伝える。これは神武天皇の時代に実際の祭祀制度が整ったことを証明する同時代記録ではないが、平安時代初期に宮中八神の起源がどのように理解されていたかを示している。八神には生成を表すムスビの神が五柱含まれ、天皇の身体と生命力を守り、その安泰を通じて国家の繁栄を支える神々とされた。イクムスビは独自の神話をほとんど持たないが、生命を活動させ、健やかに育てる働きを担う神として、宮中祭祀の中で重要な位置を占めていたのである。
出典・参考:『古語拾遺』、『延喜式』神名帳・祝詞、國學院大學デジタルミュージアム「宮中神祇一覧」
イクムスビの神名は、生産日神、生産霊、生魂命などと表記される。「イク」には生きる、生かす、生命が盛んになるという意味があり、「ムスビ」は物を生み、その姿を形づくり、成長させる霊妙な働きを表す。したがってイクムスビは、単に新しい生命を誕生させるだけでなく、すでに存在する生命へ活力を与え、健やかに活動させる神と解されている。宮中八神の一柱として祀られたのも、天皇の生命力を充実させ、その御代を長く安定させる働きが期待されたためと考えられる。
『先代旧事本紀』では、物部氏の祖神である饒速日尊が天降る際に授けられた十種神宝の中に「生玉」がある。十種神宝を用いる鎮魂の呪法には、死者を蘇生させるほどの生命力を表す文言があり、生玉とイクムスビを結びつける説も生まれた。ただし、『先代旧事本紀』がイクムスビを生玉そのものと明記しているわけではなく、神名と神宝に共通する「生」の働きから導かれた解釈である。神話的な活躍よりも神名と祭祀によって性格が示される点に、イクムスビという神の特徴がある。
出典・参考:『先代旧事本紀』、『古語拾遺』、『延喜式』祝詞
出典文献
先代旧事本紀
延喜式
神格
ご神徳
ご神徳は不明です。
別称・異称
いくむすひのみこと
先代旧事本紀
生産日神いくむすひのかみ
延喜式
生産霊いくむすひ
古語拾遺
伊久魂命いくむすひのみこと
新撰姓氏録
生久産霊命いくむすひのみこと
その他
神様グループ
祀られている主な神社
桜神宮
(東京都世田谷区新町3丁目21-3)
大宮神社
(和歌山県岩出市宮75番地)
生魂神社
(青森県田舎館村田舎舘字中辻167)
八所神社
(山形県川西町大字吉田字先達前3023-1)
御霊神社
(神奈川県藤沢市羽鳥1062)
