トヨタマヒメ 神社の神様 - 神社ファン

トヨタマヒメ

とよたまひめ

  • 神話・伝説
  • 女神・女性
トヨタマヒメ

国立公文書館(大日本国開闢由来記 CC0)

トヨタマヒメ

玉蘭斎貞秀(神佛図會)

祭神ランキング67位

トヨタマヒメとは?

トヨタマヒメは記紀神話に登場する女神である。『古事記』では豊玉毘売、『日本書紀』では豊玉姫と記され、豊玉毘売命、豊玉姫命などの名でも呼ばれる。海神ワタツミの娘で、タマヨリビメを妹に持つ海の女神である。
兄から借りた釣り針を探すために海神の宮を訪れたホオリと出会い、その妻となった。二柱は海神の宮で暮らしたが、ホオリが地上へ帰った後、身ごもっていたトヨタマヒメも出産のために海辺へやって来た。出産中は見ないよう求めたものの、ホオリが約束を破ったため、本来の姿を見られたトヨタマヒメは海へ帰った。
出産時の姿は、『古事記』では八尋和邇、《日本書紀》本文では龍、一書では八尋大熊鰐と記される。トヨタマヒメは海へ帰った後も夫や子への思いを失わず、妹のタマヨリビメを地上へ送り、御子ウガヤフキアエズを養育させた。タマヨリビメはのちにウガヤフキアエズの妻となり、神武天皇を生んだため、トヨタマヒメは神武天皇の祖母にあたる。
こうした神話から、トヨタマヒメは海の神、安産と育児の神として信仰され、安産守護、子孫繁栄、農業守護、漁業守護、畜産守護、航海安全などの神徳があるとされる。トヨタマヒメは、豊玉姫神社(鹿児島県南九州市)、青島神社(宮崎県宮崎市)、霧島神宮(鹿児島県霧島市)などで祀られている。

エピソード

海神の宮でホオリと結ばれる
ホオリは、兄のホデリから借りた釣り針を海中へ失い、その代わりとなる針を作って返しても許してもらえなかった。困り果てたホオリはシオツチノオジの助言を受け、海神の宮へ向かった。
『古事記』では、海神の宮に着いたホオリが、門のそばにある井戸のほとりで木の上に座っていた。トヨタマヒメの侍女が水をくみに来ると、器に映ったホオリの姿を見つけ、その存在をトヨタマヒメに知らせた。トヨタマヒメは外へ出てホオリと向き合い、立派な神が現れたことを父のワタツミに伝えた。
ワタツミはホオリが天つ神の御子であることを知ると、宮へ迎え入れて盛大にもてなした。そして娘のトヨタマヒメをホオリの妻とし、二柱は海神の宮で暮らすようになった。『古事記』では、ホオリは釣り針を探すという本来の目的を忘れ、三年を過ごしたとされる。
トヨタマヒメは、山や地上の世界に属するホオリと、海神の世界とを婚姻によって結びつけた女神である。二柱の出会いは、後世の浦島太郎にも通じる海中異郷訪問譚であると同時に、異なる世界の神が結ばれる異類婚姻譚の始まりでもあった。

出典・参考:『古事記』、『日本書紀』



本来の姿を見られ海へ帰る
ホオリが地上へ帰った後、身ごもっていたトヨタマヒメは、天つ神の御子を海の中で産むことはできないとして、海辺まで夫を追って来た。出産のために鵜の羽で産屋の屋根を葺いていたが、すべてを葺き終える前に産気づいたため、トヨタマヒメは未完成の産屋へ入った。
トヨタマヒメは、異なる国の者が子を産む時には本来の姿へ戻るため、決して自分を見ないようホオリに頼んだ。しかしホオリは約束を守れず、産屋の中をのぞいてしまった。『古事記』では、トヨタマヒメは八尋和邇《やひろわに》となって腹ばい、身をくねらせていたとされる。『日本書紀』本文では龍に姿を変えたと記し、一書では八尋大熊鰐となったと伝えている。
ここでいう和邇や鰐が、現在の動物名でいうワニをそのまま意味するとは限らない。海にすむサメ類を表すとする説をはじめ、巨大な海の霊獣とみる考えもある。記紀に共通するのは、トヨタマヒメが人の姿とは異なる海の存在として描かれている点である。
正体を見られたトヨタマヒメは恥じ、海と陸を結んでいた道を閉ざして海へ帰った。生まれた御子は、産屋の屋根を鵜の羽で葺き終えないうちに誕生したことから、ウガヤフキアエズと名づけられた。トヨタマヒメの物語は、見ることを禁じられた約束が破られ、異界から来た妻が去る異類婚姻譚の代表例となっている。

出典・参考:『古事記』、『日本書紀』



海へ帰った後も夫と子を思い続ける
本来の姿を見られたトヨタマヒメは、海と陸の境を閉ざして海神の宮へ帰った。しかし、『古事記』は、トヨタマヒメが夫への思いまで失ったわけではないと伝えている。
トヨタマヒメは、生まれたウガヤフキアエズを養育させるため、妹のタマヨリビメを地上へ送った。その際、玉のように美しいホオリの姿をたたえる歌を妹に託した。ホオリもまた、共に暮らした妻を生涯忘れないという意味の歌を返した。二柱が再び会ったとは記されないものの、歌の交換によって海と陸に引き裂かれた後も互いを思い続けていたことが示されている。
タマヨリビメはウガヤフキアエズを育て、のちにその妻となった。二柱の間に生まれた子の一人が、初代天皇とされる神武天皇である。したがって、タマヨリビメは神武天皇の母、トヨタマヒメは祖母にあたる。
トヨタマヒメは子を残して去った女神であるが、子を見捨てたのではない。自ら地上へ戻れなくなった後も妹を遣わし、養育を託したのである。この行動と母子の系譜が、トヨタマヒメを安産や育児、子孫繁栄を守る女神とする信仰につながっている。

出典・参考:『古事記』



安産と育児を守る海の女神
宮崎県日南市の鵜戸神宮は、トヨタマヒメがウガヤフキアエズを産んだ場所と伝えられている。日向灘に面した岩窟に本殿が鎮座し、この洞窟が出産のために設けられた産屋の跡とされる。海辺の岩窟を誕生の聖地とする信仰には、海の女神であるトヨタマヒメの神格が強く表れている。
鵜戸神宮には、トヨタマヒメが海へ帰る際、御子を養うために自らの乳房を岩へつけて残したというおちちいわの伝承がある。岩から滴る水で作られるおちちあめは、母乳の代わりとして御子を育てたと伝えられ、現在も安産や育児を願う信仰と結びついている。この伝承は記紀本文にはないが、トヨタマヒメの母神としての姿を伝える神社信仰である。
鹿児島県南九州市の豊玉姫神社では、トヨタマヒメを主祭神とし、夫神のホオリ、父神のワタツミ、妹神のタマヨリビメをともに祀っている。安産の女神として特に女性から信仰されるほか、海神の娘であることから航海安全や大漁を守る神としても崇敬されている。
トヨタマヒメの信仰では、海の異形の女神という神話上の姿と、子を産み育てる母神としての姿が一つに結びついているのである。

出典・参考:鵜戸神宮公式サイト「ご由緒」「ご神徳・風習」、豊玉姫神社公式サイト「由緒」



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出典文献

古事記

日本書紀

先代旧事本紀

古語拾遺

山城国風土記 逸文

神格

海の神 聖母神 安産の神 福の神

ご神徳

安産守護 子孫繁栄 農業守護 漁業守護 畜産守護 航海安全

別称・異称

豊玉毘売

とよたまびめ

古事記

豊玉姫

とよたまひめ

日本書紀/先代旧事本紀

豊玉姫命

とよたまびめのみこと

日本書紀/古語拾遺

豊玉比売命

とよたまひめのみこと

山城国風土記 逸文

少童豊玉姫命

わたつみとよたまひめのみこと

その他

豊玉媛命

とよたまひめのみこと

その他

豊玉毘売能命

とよたまびめのみこと

その他

祀られている主な神社

霧島神宮
(鹿児島県霧島市霧島町田口2608-5)
青島神社
(宮崎県宮崎市青島二丁目13番1号)
西野神社
(北海道西区平和1条3丁目1番3号)
海神神社
(長崎県対馬市峰町木坂247)
木曽三社神社
(群馬県渋川市北橘町下箱田甲1番地)