ウガヤフキアエズ
うがやふきあえずのみこと
- 神話・伝説
- 男神・男性

音川安親(万物雛形画譜)
祭神ランキング71位
ウガヤフキアエズとは?
ウガヤフキアエズは記紀神話などに登場する男神である。『古事記』では天津日高日子波限建鵜葺草葺不合命、『日本書紀』では彦波瀲武鸕鷀草葺不合尊などと記される。ホオリと海神の娘トヨタマヒメの子で、天孫ニニギから続く日向三代の第三代にあたる。また、後世の分類では地神五代の第五代とされる。
トヨタマヒメが海辺で出産するため、鵜の羽を屋根材とした産屋を建てたが、屋根を葺き終わらないうちに生まれた。このことから、鵜の羽で産屋を葺き終えなかったという意味の名を与えられた。トヨタマヒメは出産する本来の姿をホオリに見られたことを恥じて海へ帰り、妹のタマヨリヒメを遣わして御子を養育させた。
成長したウガヤフキアエズはタマヨリヒメを妻とし、ヒコイツセ、イナヒ、ミケイリノ、後の神武天皇となる神日本磐余彦尊らをもうけた。天つ神の系譜と海神の系譜を受け継ぎ、神話の時代から神武東征へとつながる重要な位置にある。
誕生神話から安産、子授け、育児守護、夫婦和合、延命長寿などの神徳があるとされ、後世には農業守護や開運招福の神としても信仰された。ウガヤフキアエズは鵜戸神宮(宮崎県日南市)、霧島神宮(鹿児島県霧島市)、知立神社(愛知県知立市)、日根神社(大阪府泉佐野市)などで祀られている。
エピソード
海神の宮から地上へ戻ったホオリのもとを、身ごもっていたトヨタマヒメが訪れた。天つ神の御子を海原で生むことはできないとして、地上で出産するためであった。海辺には鵜の羽を葺草《ふきくさ》として産屋が建てられたが、屋根を葺き終えないうちにトヨタマヒメの産気が迫った。
こうして生まれた御子がウガヤフキアエズである。『古事記』では天津日高日子波限建鵜葺草葺不合命《あまつひこひこなぎさたけうがやふきあえずのみこと》と記される。神名の「波限」は波打ち際、「鵜葺草葺不合」は鵜の羽を葺草として屋根を葺き終えなかったことを表すと考えられている。その誕生の状況が、そのまま長い神名の中に刻まれているのである。
『日本書紀』でも、産屋の屋根をすべて葺き終わらないうちに御子が生まれたことから、彦波瀲武鸕鷀草葺不合尊と名づけられたと記されている。ただし、神名の表記や産屋を葺く材料については、本文や一書によって違いがある。
ウガヤフキアエズは、自ら何かを成し遂げた出来事よりも、誕生そのものが大きな物語として伝えられた神である。完成を待たずに無事生まれたという神話から、後世には安産や子供の健やかな成長を守る神として信仰されるようになった。
出典・参考:『古事記』、『日本書紀』、國學院大學 古典文化学事業「天津日高日子波限建鵜葺草葺不合命」
トヨタマヒメは出産を前に、異国の者は子を産むときに本来の姿へ戻るため、自分の姿を見ないようホオリに求めた。しかしホオリが産屋をのぞくと、トヨタマヒメは大きな八尋和邇《やひろわに》の姿となって身をくねらせていた。『古事記』の和邇が具体的に何を指すかについては、ワニ、サメ、龍などの説がある。
姿を見られたトヨタマヒメは恥じ、海と陸を往来する道を閉ざして海神の国へ帰った。生まれたばかりのウガヤフキアエズは地上に残されたが、母は御子への愛情を失ったわけではなかった。『古事記』では、妹のタマヨリヒメを地上へ遣わし、御子を養育させたと伝えられている。また、トヨタマヒメとホオリは互いを思う歌を交わしており、夫婦の情愛まで失われたのではないことが示されている。
宮崎県日南市の鵜戸神宮には、この別れをもとにした独自の伝承が残る。海へ帰るトヨタマヒメが御子のために乳房を岩窟へ残し、そこから滴る水で作った飴を母乳代わりにしてウガヤフキアエズを育てたという。境内の御乳岩《おちちいわ》とお乳水は、この神社伝承に由来するものである。
御乳岩の伝承は記紀本文には見られないが、母と離れた御子の物語を安産と育児の信仰へ発展させた。ウガヤフキアエズは、海と陸の境で生まれ、母と叔母という二柱の海神の娘に守り育てられた神なのである。
出典・参考:『古事記』、『日本書紀』、國學院大學 古典文化学事業「天津日高日子波限建鵜葺草葺不合命」、鵜戸神宮公式サイト「境内散策」「ご神徳・風習」
ウガヤフキアエズを養育したタマヨリヒメは、母トヨタマヒメの妹であり、ウガヤフキアエズにとって母方の叔母にあたる。成長したウガヤフキアエズは、そのタマヨリヒメを妻とした。古代神話には近い血縁にある神々の婚姻がしばしば見られるが、記紀は二柱の婚姻に至る事情を詳しく語っていない。
『日本書紀』では、二柱の間にヒコイツセ、イナヒ、ミケイリノ、神日本磐余彦尊の四柱が生まれたとされる。『古事記』でも五瀬命、稲氷命、御毛沼命、若御毛沼命の四柱が生まれたと記され、若御毛沼命は別名を神倭伊波礼毘古命《かむやまといわれびこのみこと》という。神名の表記には違いがあるが、末子が後の初代天皇となる点は共通している。
ウガヤフキアエズは、天孫ニニギから父ホオリへと続く天つ神の血筋を受け継ぐ。一方、母トヨタマヒメと妻タマヨリヒメは、ともにオオワタツミの娘である。そのため四柱の御子は、天つ神の系譜と海神の系譜を重ねて受け継ぐ存在となった。
タマヨリヒメは母に代わってウガヤフキアエズを育て、後にはその妻として次の世代を生んだ。この養育と婚姻の伝承から、二柱は安産、子育て、夫婦和合、家族の繁栄を守る神としてともに祀られるようになった。
出典・参考:『古事記』、『日本書紀』、國學院大學 古典文化学事業「天津日高日子波限建鵜葺草葺不合命」
ウガヤフキアエズは、ニニギ、ホオリに続く日向三代の第三代とされる。日向三代とは、天孫降臨から神武天皇の誕生までをつなぐ三柱をまとめた後世の呼称である。ウガヤフキアエズについて、成長後に国作りや戦いを行ったという物語は記紀に記されていない。しかし、その存在は神話の時代から天皇の物語へ移るための重要な結節点となっている。
ウガヤフキアエズとタマヨリヒメの末子・神日本磐余彦尊は、兄たちとともに日向を出発し、東へ向かった。長い遠征の末に大和国(現在の奈良県)へ入り、橿原宮で初代天皇として即位したと伝えられる神武天皇である。
現在の概要にあった「彦火火出見が神武天皇になった」という説明は、父子関係を取り違えたものである。彦火火出見尊はホオリの別名であり、ウガヤフキアエズの父神にあたる。ウガヤフキアエズの子で神武天皇となったのは、神日本磐余彦尊である。
『日本書紀』には、ウガヤフキアエズが西洲之宮《にしのくにのみや》で亡くなり、日向の吾平山上陵《あひらのやまのうえのみささぎ》に葬られたと記されている。宮内庁は鹿児島県鹿屋市の陵墓をその御陵に治定している。宮崎県の日向神話と鹿児島県の御陵伝承にまたがり、ウガヤフキアエズは天孫の系譜を初代天皇へ渡す父神として信仰されてきたのである。
出典・参考:『古事記』、『日本書紀』、宮内庁「吾平山上陵」、國學院大學 古典文化学事業「天津日高日子波限建鵜葺草葺不合命」
宮崎県日南市の鵜戸神宮では、ウガヤフキアエズを日子波瀲武鸕鷀草葺不合尊《ひこなぎさたけうがやふきあえずのみこと》の名で主祭神として祀る。本殿は日向灘に面した岩窟の中に建ち、この洞窟がトヨタマヒメの産殿の跡であると伝えられている。ただし、『古事記』『日本書紀』は産屋が海辺に建てられたことを記すのみで、現在の鵜戸神宮をその場所と明記してはいない。
本殿裏の御乳岩には、海へ帰るトヨタマヒメが御子を思い、両乳房を岩窟へ残したという伝承がある。現在も岩から清水が滴り、その水で作るおちちあめを母乳代わりにしてウガヤフキアエズが育ったとされる。このため鵜戸神宮は、安産、育児、子授けの信仰を集めてきた。
岩窟の前には霊石亀石があり、男性は左手、女性は右手で運玉を投げ、亀石のくぼみに入れば願いがかなうと伝えられている。亀石は、海神の娘であるトヨタマヒメが出産のために海から訪れた際に乗ってきた亀が石になったものとする神社伝承に結びついている。
海辺の未完成の産屋で誕生した神話、海へ帰った母が残した御乳岩、御子を育てたお乳水が一体となり、鵜戸神宮独自の信仰が形づくられた。ウガヤフキアエズの誕生譚は、現在も子供の誕生と成長を願う祈りとして受け継がれている。
出典・参考:鵜戸神宮公式サイト「境内散策」「ご神徳・風習」、国土交通省 観光庁「日本神話:鸕鷀草葺不合尊」
出典文献
古事記
日本書紀
先代旧事本紀
古語拾遺
神格
ご神徳
別称・異称
あまつひこひこなぎさたけうがやふきあえずのみこと
古事記
彦瀲武鹚鸕草葺不合尊ひこなぎさたけうがやふきあえずのみこと
日本書紀
彦波瀲武鸕鶿草葺不合尊ひこなぎさたけうがやふきあえずのみこと
先代旧事本紀
彦瀲尊ひこなぎさのみこと
古語拾遺
鸕鷀草葺不合尊うがやふきあえずのみこと
その他
彦波瀲武鵜茅草葺不合命ひこなぎさたけうがやふきあえずのみこと
その他
彦波瀲武鵜茅葺不合尊ひこなぎさたけうがやふきあえずのみこと
その他
彦波瀲武鸕鷀草葺不合尊ひこなぎさたけうがやふきあえずのみこと
その他
葺不合尊ふきあえずのみこと
その他
鵜茅草葺不合命うがやふきあえずのみこと
その他
鵜茅葺不合命うがやふきあえずのみこと
その他
鵜草葺不合命うがやふきあえずのみこと
その他
鵜萱葺不合尊うがやふきあえずのみこと
その他
鵜葺草葺不合命うがやふきあえずのみこと
その他
鸕鷀草葺不合命うがやふきあえずのみこと
その他
神様グループ
祀られている主な神社
鵜戸神宮
(宮崎県日南市大字宮浦3232番)
霧島神宮
(鹿児島県霧島市霧島町田口2608-5)
西野神社
(北海道西区平和1条3丁目1番3号)
知立神社
(愛知県知立市西町神田12番)
日根神社
(大阪府泉佐野市日根野631-1)
